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第159話 怒りの矛先

鉄さんが家に来るようになってから、清忠には「家まで送ってくれなくても大丈夫」と断っていた。 清忠は「なんでっ」と食い下がってきたけど、まともな食事を摂るようになって、顔色も良くなってきている俺に安心していたからか、渋々納得してくれた。 ーー清忠が鉄さんと会うと揉めそうだしな…。 そんな事を思って、ふ、と微笑んだ俺を、清忠が優しい目をして見ていた。 ーーきっと、自分の事のように胸を痛めて俺を心配してくれてたんだろう。本当に彼と友達になれて良かった。彼のような妖ばかりだと、種族を越えて皆んな仲良くできるのだろうに…。 清忠の優しさを思って暖かくなった心が、天狗の郷での拒絶を思い出して、一瞬で凍える。俺は家に帰る間ずっと、冷える心を温めるように、胸に手を当てていた。 2月下旬のその日は、鉄さんが俺を助けてくれた日と同じように、雪が降っていた。 家に着いて、玄関扉に手をかけると鍵がかかっている。 今日は鉄さんがまだ来てないのかと、鞄の中の鍵を探している所に、背後から大きな羽音が聞こえてきた。 「えっ!ここまで飛んで来たのっ?誰かに見られ…」 てっきり鉄さんが、家の前まで飛んで来たのかと驚いて振り返った俺の目に、知らない天狗の姿が映る。 大きな翼を広げて地面に降り立つ彼を、呆然と見つめた。 銀ちゃんくらい身長がありそうながっしりとした身体。短く刈り上げられた黒髪。意志の強そうな太い眉に鋭い目。 新たな天狗の登場に、俺の身体が緊張でこわばる。 「おまえが、椹木 凛か?」 翼をしまいながら、彼が聞いてきた。腹の底から響いて来るような低い声に、俺の心臓が大きく跳ねる。 「…はい…。あ、あなたは、誰ですか?」 「俺は、鞍馬山僧正(くらまやまそうじょう)。八大天狗の一人だ」 「僧正…、八大…」 ーーこの人が、八大天狗…。 彼から感じる得体の知れない怖さと威圧感に、俺は、しばらくその場から動く事が出来なかった。

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