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第160話 怒りの矛先

俺が動けないで固まってる隙に、僧正と名乗る天狗が目の前に来て、俺の顎をすくって持ち上げた。 じっくりと俺の顔を眺めて、にやりと笑う。 「ふん…、銀はこういうのが好みか。まあ、可愛い顔をしてはいるが男だろ?あいつの趣味、わかんねぇな」 僧正の口から銀ちゃんの名前が出てきて、どきりとする。 「は、離して下さい…っ。俺に何の用事ですか?」 「おっ?怯えてるのかと思えば、中々気が強いな、おまえ。ふ〜ん…そういう所も気に入ってんのかねぇ…」 顔を背けて僧正の手から離れる。震える拳をぎゅっと握りしめると、もう一度顔を戻し、真っすぐに僧正の目を見た。 「なんだぁ、その目は。気にくわねぇな。お前ら二人揃って気にくわねぇ…」 そう言って、今度は俺の腕を掴んでぎりぎりと力を込める。 「あっ…、いたっ、は、離せ…っ」 「はっ、こんな程度で痛いのかよっ。弱ぇなあ。ちっ、ったく、一体こんな奴のどこが良いんだか。おまえ、何の用事かと聞いたな?そんなの決まってんだろ。おまえを始末しに来たんだよ!」 俺を見る僧正の鋭い目が更に鋭く光って、俺はぶるりと体を震わせた。だけど、だんだんと腹も立ってきて、睨みつけると声を張り上げて叫んだ。 「し、始末ってなんだよっ?だっ…て、俺はもう、銀ちゃんと離れてるじゃん!あんた達が俺達を離したんじゃないかっ!俺を殺す必要なんて、もうどこにもないじゃんっっ!」 ーー勝手な理由で俺達を引き離したくせに…。さんざん苦しんだ後に殺すくらいなら、初めに殺せばよかったんだ。そうしたら、こんなに苦しむ事もなかったっ…。 はあはあと肩を上下させて荒い息を吐く俺に、「うるせぇ!」と怒鳴り返して来た。 「誰に向かって口聞いてんだっ!俺だってこんな面倒臭ぇ事したくねぇよ!だがな、銀が監禁してからずっと、口を聞きゃしねぇんだよっ。声をかけてもこっちをちらりとも見ねぇしよっ。お陰で春には婚儀だっつうのに、話が進まねぇ!だからっ、おまえを殺せばあいつも反応せざるを得ないだろうがっ。ふん…ま、俺にはおまえを殺す理由もちゃんとあるしな」 僧正が最後に言った言葉が引っ掛かったが、それどころではない。俺の胸がざわつき始める。 ーーえ?監禁って言った?銀ちゃん…やっぱり捕まってたんだ…っ。それに、結婚も承諾した訳じゃなかったっ。よ、良かった…。今もきっと、閉じ込められた部屋で、俺の事を諦めないでいてくれてる…。なら俺も、絶対に銀ちゃんを諦めない。

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