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第162話 怒りの矛先

「っ…!」 すっと刀を引き抜いて冷たい目で俺を見る。 僧正が手に持つ刀の先から滴り落ちる血を目にして、血の気が引いた。どくんどくんと傷口と心臓が同時に脈打っている。 あまりにも突然に刺されたから、声を上げる事も出来なかった。でも、それで良かったんだ。こんな奴に情けない姿を晒したくはないから。 俺は、肌を突き刺すような冷たい空気の中、唇を噛みしめ、こめかみに汗を浮かべて痛みに耐える。俺の心臓が激しく鳴ってうるさい。 ーー掴まれている腕は痛いし、足がものすごく痛い…。でも、銀ちゃんが俺を諦めてないのがわかったからには、俺も絶対に諦めない。…そうは言ってもこの状況…、絶体絶命だよな…。くそっ、どうすれば…。 崩折れそうになる身体を、痛みを通り越して痺れ始めた右足に力を込めて堪える。 そんな俺を見て、僧正が冷笑を浮かべて感心したように言った。 「へぇ〜、おまえ根性あるな。人間は痛みに弱いと思ってたけど、泣き喚いて騒がないところは褒めてやるよ。さて、次は一瞬だ。瞬きする間もないだろうよっ」 僧正が大きな声を上げて刀を振りかざした刹那、横から大きな衝撃を感じて、俺の身体が吹き飛ばされた。 驚いて目を見開くと、吹き飛ばされたと思った俺の身体が、すごい速さで飛んでいた。 「てめぇ、何しやがるっ!」 怒鳴り声に振り向くと、僧正が腕を押さえて恐ろしい形相で追いかけて来る。 俺は、鉄さんの腕に抱えられていた。 「鉄さん…、どうして…」 「…遅くなって悪かった…。とりあえず、今はあいつから逃げるよ。僕にしっかり掴まってて」 鉄さんがちらりと俺を見て、背中に回した腕に力を込める。 俺も振り落とされないように、鉄さんの身体に強くしがみ付いた。

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