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第163話 怒りの矛先

いつもの神社の上を通り過ぎ、天狗の郷の領域に入る。降りしきる雪の中を、鉄さんはひたすら飛び続けた。 でも、俺を抱えている分、体が重たいのだろう。速度がだんだんと落ちてきている。後ろを振り返ると、僧正が確実に距離を縮めて近づいて来た。 「鉄さん…っ、あいつに追いつかれちゃう!もういいから…俺を降ろしてっ」 「駄目だっ。おまえは…必ず無事にしろに会わせるっ!それまでは、僕が守るからっ。それが、せめてもの…、ちっ」 鉄さんが途中で言葉を切る。後ろを振り返り、舌打ちをする。鉄さんの視線を追って、俺も再び後ろを見た。俺達のすぐ真後ろまで、僧正が迫っていた。 鉄さんが「落ちるなよ…」と俺の耳元で囁くと、一気に急降下を始める。 雪がパシパシと俺の顔に当たって溶け、後ろに流れていく。俺は雫が目に入らないように目を眇め、口を固く閉じた。 冷たい空気を切って進み、木々が開けた場所に降り立った。雪の積もった地面に足をついた途端、刺された右足に激痛が走り、倒れそうになる。鉄さんが慌てて俺の腕を掴んで立たせて、自身の背中に隠した。 ーーここは…、銀ちゃんに初めて連れて来てもらった場所だ。会うようになってからも、よくここで遊んだ…。 俺は、鉄さんの着物を掴んできょろきょろと周りに視線を巡らせた。 でも、今は感傷に浸ってる場合ではない。 すぐに僧正が俺達の前に降り立つ。よく見ると、彼の左腕の着物の袖が切れ、血が流れている。 僧正が、右手に持った刀を鉄さんに突き付けて、怒りに震える声を出した。 「鉄…、よくもやってくれたな。くそがっ!絶対に許さねぇ…。そもそもは、おまえが仕組んだ事じゃなかったか⁉︎なのに、なぜそいつを庇う」 「そう…。元は僕が蒔いた種だ。だから、僕が責任を持って刈り取らなければならない。例えば、僕の大事なものにまとわりつくおまえとかをな…」 「ああっ?何わけのわからない事を言ってやがる。おまえ…天狗じゃなく人間の味方をするのか?なら、仕方ねぇな。裏切り者のおまえも、そいつと一緒に殺してやるよっ」 叫ぶと同時に振り下ろされた刀を、鉄さんが咄嗟に肘で受け止めた。

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