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第164話 戦い
「鉄さんっ‼︎」
刀を受け止めた鉄さんの腕から、ガキンッと金属がぶつかる音がした。
よく見ると、鉄さんの腕には、鋼の籠手が付けられている。
俺は、ほぅっと安堵の息を吐いた。
「鉄さん…っ」
「凛、足が痛いだろうけど、ちょっとだけ我慢しててくれ!」
「大丈夫!」
鉄さんは、ちらりと俺を見て小さく頷いた。
そして、刀を受け止めたまま僧正の身体を押しやって、俺から距離を取る。腕を上げて刀を跳ね上げ、その反動で僧正が数歩、後ろへよろめいた。
「ちっ、おまえに斬られたせいで片手しか使えねぇのがムカつく。まあ、おまえ如き、片手だけでも充分だがな!」
「僧正!あんたは自分の力を過信し過ぎている。それに、相変わらず口が悪いな…。品のかけらもない」
「ああ?いつも銀に及びもしなかった貧弱なおまえに言われたくないわっ!」
体勢を立て直して再び鉄さんに斬りかかる僧正に、鉄さんも腰に差していた刀を抜いて、迎え討った。
『キィン』と高い音を立てて打ち合う二人を、俺はハラハラしながら見ていた。
僧正の方が身体が大きいのもあって、鉄さんが少し押されているように見える。
俺は、首に巻いてるマフラーを外して、熱を持ってじんじんとしてきた右足の傷にきつく巻いた。
微々たるものだけど、これで少しは動けるようになった気がする。でも、だからと言って俺に何が出来る?
俺が悶々と考え込んでいる間に、二人が上空に飛んで打ち合い始めた。
『キンキン』と高い音が鳴り響く空を、雪が舞い降りてくる空を、俺は目を細めて見上げる。所々、鉄さんの着物が切れて、地肌に血が滲んでいくのが見える。
ーー鉄さんは、なんでかわからないけど、今は俺を助けようとしてくれてる。でも明らかに僧正の方が強くて、鉄さんの身体に傷が付いていってる…。どうしよう…。俺には何の力も無い…。
俺がうだうだと迷ってるうちに、僧正の大きな一振りで鉄さんが弾き飛ばされ、地面に身体を打ち付けた。
「がはっ…」
「鉄さんっ!」
俺は、急いで鉄さんの傍に駆け寄る。倒れた鉄さんと上空からこちらを見下ろす僧正の間に立ち塞がって、鉄さんを庇うように両手を広げた。
その直後、強く足首が掴まれて、下を見ると鉄さんが俺を止めようとしていた。
「凛、そこを退け…。おまえは足を刺されてるだろう」
痛む足を庇って少し屈むと、俺は鉄さんの手に触れる。
「鉄さんも傷だらけじゃん…。俺はさ、今まで色々あって、鉄さんの事は嫌いだよ。…嫌いなはずなんだけど、鉄さんが俺の為に傷付くのは見たくない。鉄さん…そんなになるまで俺を守ってくれてありがとう。もう、充分だよ」
「こんなの…は、守ったうちには入らない。僕は、おまえを、しろに…」
「銀ちゃんは、まだ俺を諦めないでいてくれてる。それがわかって嬉しかった。俺も、まだ諦めてないよ。でも、どんなに強く思ってても、どうにもならない時もあるよね…。ふふ、俺ね…今、こんなひどい状況になってしまってるけど、それでも、天狗一族に出会えて良かったと思ってる。あんなに綺麗で強い銀ちゃんと愛し合えて幸せだったと…思ってるよ」
俺は、鉄さんの手を一度強く握ってから離し、上空にいる僧正に向かって叫んだ。
「…僧正!俺を最後に、これからは絶対に賀茂の人間には手を出さないと約束しろっ。お願いだから、鉄さんにも、もう手出しするなっ」
「凛?待てっ!僕はおまえを…」
「退けっ!おまえは邪魔だっ」
俺に向かって手を伸ばした鉄さんを、僧正が急降下してくるなり思いっ切り蹴り飛ばした。
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