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第165話 覚悟

「鉄さんっ!」 鉄さんの身体は、数メートル離れたところまで吹き飛ばされた。 蹴られた脇腹を痛めたらしく、顔をしかめながらお腹を押さえてこちらを見る。 鉄さんを心配して見ていた俺の目の前に、僧正の大きな身体が立ち塞がった。 「ずいぶんと手こずったが、やっと観念したか。ふん、邪魔が入って疲れたから、ひと突きで終わらせてやる。おまえ、動くなよ」 周りの音が消え、静かにリズムを刻む自分の心音が大きく響く。 僧正が、刀を後ろに引くのがスローモーションで見える。その背後で、鉄さんが立ち上がってこちらに向かって走り出す。 ーーあんなに怖い顔で俺を殺そうとしてたのに、今はなんでそんなに悲しい顔をして必死になってるの? 鉄さんのあまりにも両極端な様子に、俺はつい笑ってしまった。 心がとても落ち着いて、静寂に包まれた俺の耳に、いろんな音がはっきりと聞こえてくる。 「おいっ、おまえ余裕だなっ!」 「凛っ、頼む!逃げてくれっ!」 そして、ひと際はっきりと響く声がーー。 「凛っ!俺の…凛っ‼︎」 その声を聞いた瞬間、俺の全身に鳥肌が立った。身体がぶるぶると震え、心臓が早鐘を打ち始める。 ーー今のっ…今の声はっ…! 声の主を求めて振り返ろうとした俺の身体が、懐かしい匂いに包まれた。

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