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第166話 最愛

俺の身体は力強い腕に抱きしめられていた。その腕の片方が僧正に向かって伸ばされ、刀を弾き飛ばす。 俺は抱きしめる身体に強くしがみ付き、大好きな匂いを吸い込む。嬉しくて、感激で身体の震えが治まらない。永らく出ていなかった涙が、俺の目から次から次へと溢れ出した。 「ぎ、銀ちゃんっ、銀ちゃんっ!あ、会いたかったっ。俺…会いたくて会いたくて、おかしくなりそうだったっ。ふぅ…、うわぁんっ」 「凛…、俺も会いたかったっ。すまない…。辛く寂しい思いをさせたな。もう、二度と離れないし離さない」 俺は声を上げて泣きながら、ぎゅうぎゅうと銀ちゃんにしがみ付いた。銀ちゃんも、身体がくっ付いてしまうんじゃないかと思うぐらい俺を強く抱きしめて、俺の髪の毛に鼻先を埋める。 銀ちゃんの顔をちゃんと見たいのに、涙が全然止まってくれなくて、俺は涙で銀ちゃんの着物をどんどん濡らしていった。 「お、おまえ…、あの部屋の結界を破ったのか…?」 僧正の驚いた声が聞こえてくる。銀ちゃんが少しだけ顔を上げて言った。 「俺は、何もあの部屋でぼんやりと日々を過ごしていたわけじゃない。毎日毎日、力を溜めていたんだ。必ず凛の元へ戻る為にな。そろそろ出て行こうかと思っていた所に、僧正、おまえが郷を離れて八大一人分の力が減った。おかげで予想よりも楽に出る事が出来た。まあでも、さすが八大天狗という所か…。かなり、ダメージを食らってしまった」 銀ちゃんの話に驚いて、銀ちゃんの胸から顔を離して見上げた。 久しぶりに見る銀ちゃんは、無精ヒゲがあって髪の毛もボサボサに伸びている。そんな姿でも俺の大好きな銀ちゃんに変わりはなくて、愛しさで胸がきゅんとした。 俺が見ているのに気付いた銀ちゃんが、甘い顔をして「ん?」と顔を近付けた。幻じゃない、触れる事の出来る銀ちゃんに、俺は嬉しくなりまた涙を溢れさす。 銀ちゃんの親指が、俺の涙をそっと拭う。俺は、ふわりと笑って銀ちゃんを見つめた。その時、銀ちゃんの肩越しに銀色の翼が目に入り、思わず大きな声を上げた。 「銀ちゃんっ!つ、翼…がっ!」 俺は、ショックで大きく口を開けたまま固まる。 銀ちゃんの銀色の翼が、綺麗な翼が、所々羽が抜け落ち何か所も裂けて、ボロボロになっていた。

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