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第167話 最愛

傷付いた銀色の翼を見て震える俺の頰を、銀ちゃんが優しく撫でる。俺はその手を掴むと、ぽろぽろと涙を零した。 「ぎ、銀ちゃん…、翼、が…っ。うっ、ぐすっ、い、痛いっ?どうしたのっ?も、もしかして…俺の為に、無茶したの…っ?」 「大丈夫だ、凛。僧正がおまえを殺しに向かった、と鉄に聞いて…必死だった。必死で結界を突き破って、取り囲む奴等を振り払って、飛び続けた。自分がどうなってるかなんて、気付かなかった。それに俺は、おまえの為なら、どんな無茶だってするさ…。おまえさえ無事でいてくれるなら、翼ぐらい無くなってもいい」 「だっ、て…飛べなくなっちゃうよっ?うっ、ふうっ、銀ちゃん、はっ、次の当主になるんでしょ…っ?翼が無くなっても、な、なれるっ?」 銀ちゃんは、ふっと目を細めて優しく笑うと、顔を寄せて俺の頰に流れる涙を吸った。 そして、そのまま数回唇を啄んで、俺を腕の中に閉じ込めた。 「凛…、俺は、当主にはならない。というか、なれないだろう。部屋をぶち壊した上に、俺を阻止しようとした何人かの仲間を怪我させたしな。今頃、父さんや上層部の奴等が怒ってるんじゃないか?それに凛の言う通り、翼の無い者が天狗の当主になるなど、有り得ない。だから、ちょうど良かったんだ。これで心置きなく凛と一緒にいれる」 俺は、銀ちゃんの着物を握りしめて、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。 見上げた銀ちゃんの顏は、少しの曇りもなくすっきりとしてるように見えた。 「銀ちゃん…、それでいいの?だって…天狗の郷の事、大好きでしょ?自分の手で、守りたかったでしょ?それに…銀ちゃんが当主にならなかったら、誰が…」 「僕がなるしかないだろう。僧正の妹とも、僕が結婚するよ…。おまえ達は、2人で何処へなりと行くがいい」 「鉄、さん…?」 「くろ…」 いつの間にか傍に来ていた鉄さんが、俺をじっと見ていた。 鉄さんの後ろで、僧正が苦々しい顔で口を開く。 「銀…、おまえ無茶苦茶だな。翼は、俺らにとっては命の次に大事じゃねぇか。はぁ〜、そんな翼になっちまった奴に妹はやれねぇしよ…。というか鉄っ、おまえ…どういうつもりだ?なぜ今になって2人を認める?」 「ふん…もう当主にもなれない、ただの天狗のしろにはちっぽけな凛がちょうどいいと思っただけだ」 「はあ?何だそれ…。まあ別にいいけどな。俺の妹が、当主の嫁になれるならそれでいい…。おい、おまえ。おまえみたいに根性のある人間は嫌いではない。約束通り、これからは賀茂の人間を見かけても、襲わないでいてやる」 全く反省のない高慢な態度の僧正を、俺は複雑な気持ちで見た。 銀ちゃんに会えた嬉しさで、すっかり忘れていた足の痛みもぶり返してきて、俺は銀ちゃんの着物を強く握りしめて、少し顔を歪めた。 ちらりと俺の足を見た銀ちゃんが、俺の肩を抱いたままゆっくりと僧正に近付く。俺の頰を撫でてからそっと離れると、いきなり鉄さんの刀を奪って僧正の足に突き刺した。

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