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第168話 最愛
低い呻き声と共に、僧正の大きな身体が大きく後ろへ吹き飛ぶ。
銀ちゃんが刀を突き刺した直後に、僧正の身体を思いっきり蹴り飛ばしたのだ。
俺は呆気に取られて固まってしまった。
刀を鉄さんに返して何事も無かったかのように俺の傍に戻って来ると、銀ちゃんは、俺の肩を胸に引き寄せ強く抱きしめた。
「てっ、てめぇ…っ、何しやがるっ!」
僧正が足とお腹を押さえてうずくまり、銀ちゃんを睨みつけている。刺された足からは、じわりと血が滲み出ていた。
「ああっ?おまえ…凛に何をしたのかわかってるのか?それは礼だ。よくも俺の大事な凛を傷付けてくれたな。本来なら、凛がされた何十倍もおまえを突き刺してやりたい所だ。だけど、それは凛が望まないからやらない。今回はそれぐらいで済ませてやるが、次はないぞ…」
そう言って、銀ちゃんはぞくりとする冷たい目で僧正を睨み付ける。
銀ちゃんに睨まれた僧正は、一瞬、びくりと肩を震わせると、そっぽを向いて黙ってしまった。
俺は、冷たい空気をまとった銀ちゃんが嫌で、銀ちゃんの腕の中で身じろぎをする。
そんな俺に気付いて、瞬時に甘い表情に変わった銀ちゃんが俺を抱き上げた。
「あっ、ひゃあっ…」
「凛、足が痛くて辛いだろう?早く、家に帰ろう。すぐに俺が治してやるからな…」
「あ…うん…。でも銀ちゃんの翼に比べたら、平気だよ…。俺の足もだけど、銀ちゃんの翼も治せる?俺に出来る事があるなら何でもするから…」
「ふっ、そうか。じゃあ、凛にしか出来ない事をやってもらおうかな」
「うん。何でも言って」
俺の額に自分の額をこつんと合わせて、銀ちゃんが楽しそうに笑った。
銀ちゃんは、俺の鼻先にキスを落とすと、鉄さんに顔を向ける。
「くろ…。おまえが凛にしてきた事は、俺は今でも許せない。だが、俺にとっておまえは大事な兄弟みたいなものだから、心から憎む事も出来ない…。おまえの中でどんな変化があったのかわからないが、今回、凛の危機を知らせてくれた事は礼を言う。あと、俺の尻拭いをさせてしまう事も、謝らないといけない。すまない…くろ」
銀ちゃんが、鉄さんに軽く頭を下げた。
俺は、銀ちゃんの腕の中から顔だけ振り返って、鉄さんの様子を窺う。鉄さんの目は銀ちゃんではなく、なぜか俺に向けられていた。
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