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第169話 最愛

鉄さんが近寄って来て、俺から銀ちゃんに視線を移して言った。 「僕は、いつも郷の事を一番に考えている。しろに負けないように勉強も頑張ってきた。だから僕は、力の限り精一杯、郷を守ると誓うよ。しろは、これからは凛だけをしっかり守ればいい。そもそも、昔におまえがやる気を出すようになったのだって、凛の為なんだろ?」 「そうだ。俺がここまで強くなれたのも、凛あっての事だ。凛に出会ったから頑張ろうと思えた。でなければ俺は、いつまでも不貞腐れて怠惰な日々を過ごしていただろう…。俺は凛に出会って、初めて世界が輝いて見えたんだ。凛は俺の全てだ。もちろん、郷の事も大事には思っているが、何よりも凛が大切だ」 銀ちゃんが、俺を見て愛おしそうに微笑んだ。 「それに…俺は元よりおまえが当主になるのが相応しいと思っていた。郷には、俺に対して反感を持つ者達がいるが、おまえに反感を持つ者は一人もいない。例え数人であっても、反対をされてる俺が当主になっては駄目だ。ただ…結婚に関しては、おまえに好きな人がいるとしたら…すまないと思う」 「ふん…天狗一族は僕に任せてくれたらいい。結婚も誰が相手でもいいよ…。好きな人なんて…いないのだから…。でも、僧正の妹には悪い事をしたかな?しろじゃなく僕に代わってしまって…」 鉄さんは、少し寂しそうな顔で、再び俺に目を向けた。 「それは大丈夫だ。俺が言ってしまってもいいのかわからないが…、彼女は、ずっと昔からおまえが好きだったそうだ。一度、俺が監禁されている部屋に訪ねてきて、『絶対に結婚を承諾するな』と頼まれた。『私は鉄様以外と一緒になる気はない』と断言していた。だから、彼女はとても喜ぶと思うぞ」 「そうか…」 ふっと、息を吐いて小さく笑うと、今度は切ない表情になる。 「なら、僕も彼女の気持ちに応えるように努めよう。すぐに、郷に戻って話をまとめてくる。しろの事で大騒ぎをしてるだろうから、それも鎮めてくるよ。おまえ達2人は、早く家に帰って手当てをしろ。全て収まったら報告に行くよ。僧正、郷に帰るぞ」 そう言うと、俺に向けていた視線を逸らし、鉄さんは、僧正に帰るように促した。

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