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第171話 最愛

「ぎ、銀ちゃんっ、裸足じゃんっ!足、冷たいでしょ?俺、自分で歩くから降ろしてっ」 俺は、銀ちゃんの腕の中から降りようとばたばたと暴れる。そんな俺を、銀ちゃんはより一層力を込めて抱きしめた。 「駄目だ。おまえは足を怪我してるのだから、歩かせられない。俺なら平気だ。このまま帰るぞ」 「え〜…。だって、雪が積もってるんだよ…。俺だって、銀ちゃんを冷たい雪の中、裸足で歩かせるのは嫌だ…。だからと言って、無理に飛ぶのも駄目だし…」 口を尖らせて呟く俺の頰に、銀ちゃんが口付ける。 「ふっ、あんまり可愛い顔をするな。ここで襲うぞ?」 「も、もうっ!本気で心配してるのにっ」 もっと口を尖らた上に頰を膨らませて銀ちゃんを睨む。その時、どこからか小さく声が聞こえて来た。 「お〜い、銀さまぁっ…、大丈夫ですかぁ…」 「あ、浅葱?」 声がする方角を2人で振り返る。小さな影が見えて、だんだんとこちらに近付いて来た。 声の主はやっぱり浅葱で、俺達の前に降り立つなり、銀ちゃんに抱き抱えられた俺にしがみ付いてきた。 「凛!大丈夫だったっ?元気だったっ?元気じゃないよね…。ああっ、すっかり痩せちゃって…っ。ごめんっ、俺…何の力にもなれなくて…っ」 銀ちゃんに頭を掴まれて、ぐいっと俺から離された浅葱に笑って見せる。 「大丈夫だよ。銀ちゃんに会えたから、辛いとか寂しいとかは全部、消えちゃった。浅葱も大丈夫だった?郷から出られなかったんでしょ?」 「うん…、俺は平気…。俺、ずっと後悔してた。郷に戻らずに、凛の傍にいてあげれば良かったって…。凛、1人でよく耐えたね、頑張ったね…ぶっ…」 また、俺に飛び付こうとして、浅葱は銀ちゃんに顔を押さえ付けられていた。 「浅葱…凛に触るな。ところで、おまえに頼みがある。凛と俺を抱えて家まで運んでくれ。ここから家までの距離ぐらいなら、なんとか2人抱えても飛べるだろう?」 「え〜…、凛だけならまだしも銀様まではちょっと…。はっ!いえっ、行けます、飛べますっ!」 困った顔をして渋っていた浅葱は、銀ちゃんにぎろりと睨まれると、ぴしりと背筋を伸ばして快諾した。

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