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第172話 最愛

俺を抱き抱えた銀ちゃんを浅葱が抱えて、家まで飛んで帰った。だけど、今まで飛んだ中で、断トツにのろのろとして遅かった。しかも、かなりふらふらとしていた為に、銀ちゃんに「しっかり飛べ。落としたら承知しないぞ」と怒られて、浅葱がとても可哀想だった。 ずいぶんと時間をかけて家に戻って来た頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。おかげで人目に付かずに、家の前まで飛んで戻って来れた。 家に入るとすぐに、寒いのにびっしょりと汗をかいて、ぜえぜえと肩で息をする浅葱に水を飲ませる。 銀ちゃんが、浅葱に「休んでろ」と言って、俺を銀ちゃんの部屋に連れて入った。 銀ちゃんの部屋には、俺の荷物や服が置いてあって、それを見た銀ちゃんが、目を細めて俺の額に口付けた。 「凛、ずっとここで過ごしてたのか?」 「う、うん…。だって、銀ちゃんの匂いがして、銀ちゃんを感じれるから…」 「そうか…」 そう言って俺の唇に軽くキスをして畳に座らせる。そして、俺の足に巻いていたマフラーをゆっくりと外してズボンを脱がせた。 「ひどいな…。よく、この傷に耐えていたな。偉いぞ」 「ん、俺…銀ちゃんを思うと強くなれるんだよ…」 そう言う俺の頰をするりと撫でると微笑んで、「ちょっと待ってろ」と部屋を出て行った。 怖かったり緊張したり嬉しかったりと色々あって、あまり意識していなかった傷を見る。足には流れ出た血が固まってこびり付き、刺された傷口は黒くぱっくりと開いていた。 俺は、傷口を見た途端に怖くなってきて、再びズキンと痛みを感じ出す。動悸が速くなった胸を押さえていると、扉が開いて銀ちゃんが戻って来た。 お湯の入った洗面器とタオルを持って、急いで俺の傍に来る。手に持った洗面器とタオルを置いて、俺の肩を抱き寄せて顔を覗き込んだ。 「どうした?顔色が悪い…。気分が悪いのか?」 「ん…、銀ちゃん、怖い…」 「もう大丈夫だ…、痛かったら声を出していいからな」 銀ちゃんが俺の頰を撫でてから、お湯に濡らしたタオルで血を拭いていく。俺は、唇を噛みしめながら、銀ちゃんの着物をぎゅっと掴んで痛みに耐えた。 血を綺麗に拭き取ると、銀ちゃんの指が俺の唇に触れて優しくなぞった。 「凛、痛くても唇を噛むな」 銀ちゃんが顔を近付けて、俺の唇をぺろりと舐めた。次に、俺の刺された右足の太ももに手を添えて、身体を屈めてキスをする。そして、ゆっくりと舌を這わせ始めた。 「ふっ…、んぅ、あ…っ」 ぴりりと銀ちゃんの唾液が沁みる痛さと、熱い舌から感じる痺れに、堪えても声が漏れてしまう。 俺は、時折りぴくぴくと足を跳ねさせて、身体の奥に熱がこもってくるのを感じていた。 ずいぶんと時間が経って、銀ちゃんの唇がそっと離れる。傷口を見ると、少しピンク色になっていたけど綺麗に治っていた。 「あ…はぁ…っ、銀ちゃん…ありがと…」 銀ちゃんを見てお礼を言う。銀ちゃんの唇には俺の血が付いていて、俺は手を伸ばして顔を寄せると、銀ちゃんの唇をぺろりと舐めた。

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