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第176話 最愛

どれくらいの時間抱き合って、いつ終わったのかも俺はわからなかった。 気が付いたら部屋の中は真っ暗で、隣に銀ちゃんの姿が見えない。途端に俺は不安になって、銀ちゃんの名前を呼ぶ。だけど、喉が痛くて咳き込んでしまった。 銀ちゃんの姿が見えなくて慌ててしまったけど、喉や身体の節々(特に腰)が痛いのが、銀ちゃんと繋がった事が夢ではないと教えてくれる。 銀ちゃんとの激しいえっちを思い出して恍惚としていると、扉が開いて銀ちゃんが入って来た。俺の傍に来て覗き込み、驚いた顔をする。 不思議に思って首を傾げると、銀ちゃんの温かい手が俺の頰を撫でた。 「凛、どうした?怖い夢でも見たのか?どうして泣いてるんだ?」 ーーえ、俺…泣いてる?そっか…、きっと銀ちゃんの姿が見えなくて、銀ちゃんと会えたのが夢だったのかな…って不安になったんだ…。 俺は、銀ちゃんの手の上に手を重ねて、ふわりと笑った。 「起きたら銀ちゃんがいなかったから…、さっきまでの事が夢だったのかな、って悲しくなった。でも大丈夫。ちゃんと、ここに銀ちゃんがいるってわかったから」 「そうか…。離れて悪かった。おまえが起きたら何か食べさせてやろうと、簡単な物を作ってたんだ。どうする?腹減ってないか?」 「うん、お腹空いた。あっ、でもその前にお風呂…」 「おまえが眠ってる間に風呂に運んで洗ったぞ。まだ、どこか気持ち悪い所があるか?」 「…ほんとだ、綺麗になってる。ありがと。でも…俺、身体が痛くて歩けない…」 「だろうな。ふっ、ほら、俺が連れて行ってやる」 銀ちゃんに両手を伸ばして抱き上げてもらう。まあ、そもそもの原因は銀ちゃんにあるんだから、俺は遠慮なく居間まで運んでもらった。 居間に入って、はたと気付く。も、もしかして、また浅葱に聞かれ……。 「ぎ、銀ちゃん…、浅葱は?」 近くにある銀ちゃんの顔を見つめて、恐る恐る尋ねた。 銀ちゃんは俺の唇に軽く口付けて、ん?と首を傾げる。 「浅葱なら、早々に出て行ったぞ。清忠の所へ報告に行くと言ってたから、奴の所で休んでから帰ったんじゃないか?」 「そっか、良かった…。って、い、いつ浅葱が清忠の所へ行くって聞いたの?」 「ん?おまえの身体に俺の痕をつけてる時に、部屋の外から声がした。『どうぞ、ごゆっくり』と言って、すぐに出て行ったから、あいつも中々、空気を読めるようになってきたよな」 ふっ、と笑って何でもないように言ったけど、冗談じゃないっ。ま、またっ、浅葱に声を聞かれてしまった…。それに、絶対に清忠にも話してるに違いないっ。 ーー俺…どんな顔してあいつらに会えばいいの…? 彼らの事は好きだけど、また恥ずかしい声を聞かれたと知って泣きそうになる。 俺の困った顔を見て、銀ちゃんが「大丈夫だ」と笑う。 「あいつらに恥ずかしがる事などない。前に、凛の声を聞いたら忘れろと言ったからな。賢いあいつらなら、ちゃんと忘れてるよ」 「えー……」 きっと、恐怖で忘れさせられるんだろうな…と、少し彼らを可哀想に思った

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