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第177話 幸福
待ち望んだ銀ちゃんの腕の中で眠る事が出来て、とても幸せな気持ちで目覚めた。
もう熱くなる身体を我慢することもない。薄れていた大好きな匂いも、たっぷりと付いた。それに、久しぶりにぐっすりと眠れて、頭がすごくすっきりとしている。身体は全身筋肉痛で動かないけど…。でも、この痛みにすら幸せを感じる。
一人でにやにやとしてると、「どうした?」とすぐ傍から声がした。声の主を見て、俺はまた幸せを噛みしめる。少し顔を近付けて、ちゅっと銀ちゃんの唇にキスをした。
「ふふ、おはよう。起きたら銀ちゃんが隣にいるから、幸せだなぁって思ってたんだよ」
「おはよう。そうだな。俺も、おまえが腕の中にいてとても幸せだ。凛、今日は学校を休め。一日、一緒にゆっくりと過ごそう」
「うん。学校に行こうにも歩けないしね…。それに、今は少しでも離れたくない。ずっと俺の傍にいて」
「ああ、ずっとこうしていよう」
俺の肩に回った腕に力が入る。身体が密着して、銀ちゃんの胸に鼻先を押し付けた。そのまま匂いを思いっ切り吸い込むと、幸せ過ぎて頭がくらくらした。
この日は一日中ごろごろとして過ごし、動けるようになった翌日の土曜日に、2人で倉橋の神社に行った。
長い階段を登り鳥居をくぐろうとした時に、また頭上から声がする。
「久しいな、人の子。いつぞやの社に来い」
足を止めて鳥居を見上げると、姿は見えないけど、一陣の風がふわりと頰を撫でた。俺は「はい」と答えて、銀ちゃんの手を握って再び歩き出す。
銀ちゃんが、面白くなさそうな顔で聞いてきた。
「今の奴…、凛に馴れ馴れしくないか?」
「銀ちゃん…奴って言い方は駄目だよ。昨夜話したでしょ?ここの神社の神使様だよ。俺が頑張れたのも、あの方が応援してくれたおかげでもあるんだから」
「…ふ〜ん…」
どうにも納得してない様子の銀ちゃんを連れて、いつかの社の前に立つ。中から「入れ」と声がして、かなり窮屈な社の中に、順番に入った。
先に入って座った銀ちゃんの隣に、きつきつだけど座ろうとしたら、ひょいと脇を抱えられて、あっという間に膝の上に座らされてしまう。
「えっ?ぎ、銀ちゃんっ、降ろしてよっ」
「狭くて座れないからこれでいい」
「だってっ、神使様に失礼じゃ…っ」
「ふふ、別によい。仲良くてなによりだの」
「す、すいません…」
くすくすと笑いながら、金色の目を細めて俺達を見る。
「どうやら、私の助けはもう必要なくなったようだな。天狗の精もたっぷりと注いでもらったようだしの。よく、頑張った」
神使の言葉に、照れながらも胸が詰まって泣きそうになる。
「はい…。でも俺が頑張れたのは、神使様のおかげでもあります。俺に声をかけて下さって、ありがとうございました」
「ただの気まぐれだ。気にするな。私の方こそ久しぶりに気分が高揚したぞ。礼を言う。ふふ、おまえが頑張った褒美をやりたいと思う。何か望みはないか?」
「望み…」
その言葉に甘えていいなら、俺の望みはただ一つ。
「…遠慮なく、望みを言っていいですか?」
「よい。言え」
「銀ちゃんの…、彼の翼がひどく傷ついてしまったんです。どうか、彼の翼を元通りに治して下さいっ」
そう言うと、俺は深く頭を下げた。
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