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第182話 幸福

俺も銀ちゃんから身体を離して鉄さんを見る。 まっすぐに銀ちゃんを見る鉄さんは、とても真面目な顔をして、なんだか以前よりも大きく見えた。 「しろが郷を飛び出した後の騒ぎは、僕と僧正が皆に説明をして収めた。動揺していたおじさんは、紫おばさんが宥めてくれた。2人とも、しろの翼の事ではショックを受けていたけど、『郷を離れるいい切っ掛けになる』と、しろを連れ戻すのを諦めたんだ。それと、僕の父さんが大喜びで、今、全国の郷に率先して説明に回ってくれている。ああ…それから、しろが言ってた通り、僧正の妹は僕との結婚をとても喜んでくれたよ。あんなに強く、誰かに愛情を向けられたのは初めてだよ。僕も、彼女の気持ちに応えれるように努力するつもりだ…」 「そうか…。くろ、俺は、おまえには本当に感謝している。ありがとう」 銀ちゃんが、鉄さんに深々と頭を下げる。 「親父と母さんも、郷を騒がせた事は謝る。だけど俺は凛が大切だ。凛の傍にいたい。それが俺の幸せなんだ。でも、2人や郷に何かあった時はすぐに駆けつける。だから、これからも俺を頼って欲しい」 縹さんと紫さんにも頭を下げる銀ちゃんにならって、俺も一緒に頭を下げた。 「おまえは私達の大事な息子だからな。おまえの幸せを一番に考えるべきだった。おまえの気持ちを無視して勝手な事をしたのは私だ。本当にすまなかった。おまえ達も何かあればすぐに言いなさい。おまえも凛くんも、私達の大事な家族なのだから」 縹さんの優しい言葉に、俺の胸が感動で震える。銀ちゃんが傍にいてくれるだけで幸せだけど、やっぱり周りに祝福してもらえるのはとても嬉しい。 「はい…ありがとうございます…っ。俺にも出来る事があれば言って下さい」 震える声でそう言った俺に、紫さんが嬉しそうに答えた。 「そう?じゃあ今度、私とお出掛けしてちょうだい。私、ずーっと凛ちゃんとお買い物したりスイーツを食べに行ったりしたかったのよ。ね?約束よ」 「…はい」 ついさっき、出来る事があれば言って欲しいと言ったばかりなので断る事も出来なくて、俺は戸惑いながらも頷いた。 でも本当は、俺に好意を寄せてくれるのは嬉しいし甘い物も好きだから、少しだけ楽しみだなと思った。 ようやく認めてもらえて嬉しくなった俺は、笑顔で銀ちゃんを振り返る。そこには、すっごく渋い表情をして俺を見る銀ちゃんがいた。

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