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第185話 幸福
翌週の週末に、清忠と一緒に倉橋の神社に向かった。銀ちゃんにも声をかけたけど、「あいつには二度と会いたくない」と断られた。よっぽどキスされたことが嫌だったらしい。
あの時は、俺の方が怒ってしまったけど、された本人の方がショックが大きかったに違いない。
神社に行く日は、先週に積もった雪もすっかり溶けて、とてもいい天気になった。
俺のマフラーは汚れてしまったので、銀ちゃんのマフラーを借りて首に巻いている。だから、動く度にふわりと銀ちゃんの匂いが漂って、とても幸せな気分になる。
俺がにまにまと笑いながら歩いていると、並んで歩く清忠が不思議そうに見てきた。
「凛ちゃん、そんなに神社に行きたかったの?」
「え?あ、いや…行きたかったっていうか、ちょっと言いたい事があるっていうか…。ま、まあ、あの神社、結構気に入ってるしね…」
「ふ〜ん…、俺はやっぱり憂鬱だよ。兄さんも誘ってみたけど、『絶対に行かない!』って拒絶だぜ…」
「そんなに神使が怖いの?そんなでもないと思うんだけどなぁ」
「ん?もしかして凛ちゃん、神使に会った?てか、会えたのっ?」
「う、うん…。まあ、行けばわかるよ…」
「えっ、なにっ?どういうこと?」
清忠に突っ込まれて困っているうちに、神社の鳥居が見えてきた。
俺は、清忠から逃げるように早歩きになり、鳥居の手前の階段を駆け上がる。清忠も慌てて俺を追い掛けて来た。妖である清忠の本気はすごくて、俺はあっという間に追いつかれて、肩を掴まれてしまった。
「凛ちゃんっ。待って、どういう…」
俺を問い詰めようとした清忠の動きがピタリと止まる。不思議に思っていると、いきなり目の前に神使が現れた。神使は俺に微笑んだ後に、鋭い目つきで清忠を見る。
後ろで、清忠が小刻みに震え出すのがわかった。
「よく来たな、人の子。それと妖狐、いつ来るのかと待ちわびていたぞ」
「こんにちは。また会えて良かったです」
「え…あ…」
俺と神使を交互に見て、清忠が言葉も出せないほど驚いている。そんな清忠から視線を逸らせて、神使が「社に来い」とだけ言って姿を消した。
「はい。ほら、清行くよ」
「え…、あ…う…」
俺は、まだ呆然として固まってる清忠の腕を引っ張る。清忠は、俺に引きずられるようにして、ふらふらとしながら付いて来た。
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