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第186話 幸福
社に向かう途中に、後ろから声をかけられて振り向くと、倉橋が駆け寄って来るところだった。
「椹木に真葛やん。来てたんや。言うてくれたらよかったのに」
「ごめん。後で連絡しようと思ってたんだ」
俺が謝ると「でも来てくれて嬉しい」と笑う。倉橋は、日頃はクールで冷たい雰囲気だけど、仲の良い友人の前では、柔らかい笑顔を見せる。その笑顔は、思わず見惚れてしまうほどだ。
「真葛はどうしたん?なんか暗いで?」
「あ、清の事はいーのいーの。大丈夫だから。俺達、ちょっと今から行く所があるんだ」
「どこ?俺も行くわ」
「…えっと、この先を行った所にある小さい社なんだけど…」
「ああ…あそこ…。ふ〜ん…、俺、なんで椹木達がここに来たか何となくわかったわ。やっぱり俺も行かなあかん」
「そう…?」
俺は、含みのある言い方をする倉橋を不思議に思いながらも頷いた。それに、社と聞いた時に、倉橋の頰がぴくりと動いたように見えた。
社の前に着くと、すぐに神使が再び姿を現した。ちらりと倉橋を見て、渋い顔をする。
「なんだ、蒼(あおい)…、おまえまで来たのか?」
「やっぱりそうやった…!だって、白(はく)が人間に姿を見せんのって珍しいやん。気になるやん」
「そこの人の子が、天狗の濃い匂いをつけておったから興味を持っただけだ。というか、おまえ達は知り合いなのか?」
「友達やねん。まあ…俺も天狗に想われとる人間は初めて見たから興味を持ったんやけどな」
俺と清忠は、神使と倉橋の顔を、目を見開いて交互に見た。
ーーえっ、なに?この2人ってどういう関係?
驚いている俺達に気付いて、神使が教えてくれる。
「こいつはな、幼少の頃から私の姿が見えているのだ。私がどんなに姿を隠したとしても、すぐに見つけて後を付いて来た。私から姿を現さないのに見える人間は、後にも先にもこいつ1人だけだ」
倉橋を見つめる神使の金色の瞳が、俺に向けられる無機質なものでも、清忠を見る時の氷のようなものでもなく、とても暖かく優しいものに見えた。
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