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第187話 幸福
倉橋が、神使から俺に視線を移して尋ねる。
「で、椹木はいつ白と会ったん?」
ーーはく…白、かなぁ?神使の名前、白って言うんだ。神様の使いを呼び捨てって、倉橋ってすごい…。
そんな事をぼんやりと考えていると、倉橋が間近から俺の顔を覗き込んできて、思わず声を上げた。
「わぁっ!あ…ごめん…っ。え…っと、いつ会ったかだっけ?あ〜…、1月の中頃にさ、倉橋に聞きたい事があって、一人でここに来たんだよ。その時に声をかけられたんだ」
「へぇ…、白、ほんまに自分から姿を見せたんや…」
「だから言ってるだろう。天狗の精を注ぎ込まれて濃い匂いが付いておったから気になったと」
「ちょっ…っ、せ…精とか注ぐとか言うのヤメろ…やめて下さい…」
清忠の前ではいいけど、倉橋の前で、そんな露骨な事を言われるのは恥ずかしい。
「何がだ。現に今も精を注ぎ込まれた濃い匂いがしておるではないか。昨夜も激しく抱かれたのだな?」
「なっ、なっ、な…っ」
ほんとは、この前の銀ちゃんにキスをした事を抗議しようと思ってたのに、逆に追い込まれてしまう。
俺は羞恥で熱くなった顔を隠すように、清忠の背後に隠れた。
「白、やめや。椹木が困ってるやんか。椹木もいちいち反応しとったら身が持たへんで。妖とかと一緒でな、白は思った事をズケズケと言うんや。でも、悪気はない」
倉橋の言葉に、俺は清忠の背後でぷるぷる震えながら、小さく頷いた。
清忠はというと、落ち着きなく手を何度も服に擦り付けている。どうやら緊張で手汗が止まらないようだ。
「ところで妖狐、名前はなんと言う」
いきなり神使に名前を尋ねられて、清忠の肩がびくんっと跳ねた。
「ま、真葛っ、清忠ですっ。お会い出来て光栄ですっ!」
清忠の声が上擦って高くなる。
俺は恥ずかしいのも忘れて、「緊張しすぎだろ…」と笑ってしまった。倉橋も可笑しいのか、ぷっと吹き出していた。
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