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第191話 甘い果実

電車に乗り込むと、空いていた座席に座り、何度か深呼吸を繰り返して目を閉じた。ふと、頭に置かれた手の感触を思い出して、助けてくれた人の事を考える。 ーーすっごく綺麗な人だったなぁ。銀ちゃんを見慣れてるのに、それでもどきどきしちゃった。あんなに綺麗な人がいるんだ。綺麗過ぎて妖かと思ったけど、そんな感じではなかったし…。 ぼんやりと思い返していると、すぐに待ち合わせの駅に着いた。 電車を降りて改札を出たら、目の前で紺のジャケットを羽織った銀ちゃんが待っていた。俺を見て、とびきりの笑顔を見せる。 ーーああ…、でもやっぱり銀ちゃんが一番綺麗だ。 そう再確認して、俺も笑顔で銀ちゃんの傍へ駆け寄った。 銀ちゃんは、傍に来た俺の頰を撫でると手を握り、「行こうか」と言って歩き出した。 銀ちゃんが予約してくれた店は、静かな和食の店だった。綺麗な個室に案内されて、なぜか向かい合わせではなく、隣に並んで座る。料理が全て机の上に並べられてから、手を合わせて食べ始めた。 俺が滅多に来れないような店で、どの料理も繊細な味でとても美味しい。 ほとんどの料理を食べ終わり、お腹が膨らんだところで、来る時に会った人の事を銀ちゃんに話した。 俺の話を、最初はにこにこと聞いていた銀ちゃんだったけど、話し終えた頃には眉間に深いシワが寄っていた。 『すっごく綺麗な人』と言うところは、『まあまあ綺麗な人』に変えて言ったんだけど、それでも駄目だったのかな…。 そう思いながら恐る恐る銀ちゃんを窺うと、いきなり俺を膝の上に乗せて、後ろからお腹に腕を回し、ぎゅうと強く抱きしめてきた。 「ぎ、銀ちゃん?」 食事で膨れたお腹を強く締めつけられて、苦しくなる。俺は、銀ちゃんの腕をぽんぽんと叩いて振り仰ぐ。 「銀ちゃんっ、苦しい…っ。一体どうし、た…む…ぅん…」 俺の言葉を遮り、銀ちゃんが俺の顎を持ち上げて、いきなり唇を塞いだ。ぬるりと舌が挿し入れられて、口内を蹂躙される。舌の根が痺れるほどに強く吸われて蕩けてしまった俺は、口の端からたらりと涎を垂らしたまま、ぼやける瞳で銀ちゃんを見つめた。

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