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第192話 甘い果実
俺は、肩で息をしながら身体の向きを変えて、銀ちゃんの胸に頭を預ける。すると銀ちゃんは、俺の身体に腕を巻き付けて、またきつく抱きしめてきた。
「あっ、んもぅ…っ、銀ちゃん、苦しいってば…。どうしちゃったの?」
「…そいつ、凛に抱き付いたんだろ…?許せない。俺の凛なのに」
そう言って、俺の首をちゅうと吸い上げた。
「あ…や…っ、抱き付いた…って、俺を助けてくれたんだってばっ」
「わかってるが腹が立つ」
「じゃあ、俺が顔から転んで怪我をすれば良かった?」
「駄目だっ!おまえの身体に、どんな小さな傷でも付けたくない」
「じゃあしょうがないじゃん。俺が怪我しなくて済んで、今こうして銀ちゃんと美味しい食事が出来てるのも、その人のおかげなんだから」
そもそもの発端は、俺が家を出るのが遅れたからなんだけど、そこは言わないでおこうと思う。
俺が銀ちゃんをしかめっ面で睨むと、まだ言いたい事がある様子だったけど、ぐっと飲み込んで、大きな溜め息を吐いた。
「はぁ〜…。今回は凛を助けた事に免じて許してやる。しかし、次にそいつが凛に手を出した時は懲らしめてやる」
「……。いやだからっ、助けてくれただけなんだって!も〜っ、どう言えば納得してくれんのっ?銀ちゃんのばか…っ」
俺の『ばか』が効いたのか、やっと腕の力が緩む。ほっと息を吐いて銀ちゃんを見れば、悲しそうな目をして俺を見ていた。途端に俺は、言い過ぎたかな…と罪悪感が湧いてきて、慌てふためく。
「ご、ごめんっ。俺、言い過ぎたよね…っ。俺もこれからは転ばないように気をつける。誰かに助けられたりしないように気をつけるから…、だからそんな顔しないで…っ」
銀ちゃんにぎゅうぎゅうとしがみ付き、必死で訴えた。そんな俺に満足したのか、やっと微笑んで、俺の頰をふわりと撫でた。
「ん…そうだな。おまえも俺以外の前では、転ばないように気をつけてくれ。おまえは気にしてないようだが、下心を持っておまえを助けようとする輩だっているんだ」
俺を胸に抱き寄せて、まだそんな事を言っている。
ーーてか、なんで俺が謝ってんの?俺、何も悪くないよね?いや…やっぱり遅れそうになって急いだ俺が悪いのか…?
俺に対する銀ちゃんの独占欲が、ますます強くなってる気がする。でも、激しい独占欲に困りはするけど、正直、とても嬉しいとも思う。
だから、俺も銀ちゃんの背中に腕を回して、甘えるように胸に顔を擦り寄せた。
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