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第195話 甘い果実

銀ちゃんと甘々に過ごせた春休みが終わり、新学期が始まった。 いつもより少し早めに登校して、学校の玄関横に貼られた新しいクラスを清忠と確認する。いち早く名前を見つけた清忠が、とても嬉しそうに俺を見て大きな声で言った。 「やった!凛ちゃん、今年も同じクラスだぜ。よろしくなっ」 「えっ…、あっ、ほんとだっ。よかったぁ。清、よろしく」 2人で喜び合って新しい教室へ向かう。その道中に清忠が、「一ノ瀬さんに『必ず同じクラスになって傍を離れるなよ』って無茶な命令されてたし、とりあえずは良かった…」と小さく呟いていた。 清忠の心の声が思わず漏れてしまったみたいだけど、俺はしっかりと聞いた。 ーーもうっ!銀ちゃん、また清を自分の家来のように使ってっ。俺の大事な友達なのに…。帰ったら注意しないと。 心なしか銀ちゃんのプレッシャーで力が入っているように見える清忠の背中を見ながら、そう思った。 新しい教室に入ると、「椹木っ、真葛!」と呼びながら倉橋が近付いて来た。 「おはよう、倉橋。今年も同じクラスだね。よろしくなっ」 俺が挨拶する後ろで、清忠もうんうんと頷く。 「うん、よろしく。それから真葛、俺は白みたいに怖くないからもっと近寄って来てや。あ、そうや。新しい先生が来るらしくて、2年のクラスの担任を持つみたいやで」 「へぇ〜、どんな先生だろ…。優しい先生がいいな」 「そうやな。俺は綺麗な優しい女の先生やったら、最高やわ。真葛は?」 「…俺も、優しい女の先生がいい」 そんな話で盛り上がっていると、HRを知らせるチャイムが鳴った。 俺達は、それぞれ出席番号順の自分の席に座る。 皆んなが静かに待ってる中、コツコツと廊下に響く足音が聞こえて来る。足音が教室の前で止まると、前側の扉が勢いよく開いた。 コツコツと靴の音を鳴らして、スラリと背の高い、スーツ姿の男の人が教壇に立つ。その姿を見て、教室のあちこちから感嘆の声が漏れた。 周りの騒めきを気にもしないで、クラス全員をゆっくりと見回すその人を見て、俺も思わず声を上げそうになる。 俺のクラスの担任になるその人は、前に駅で俺を助けてくれた、あの綺麗な人だった。

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