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第196話 甘い果実
始業式の後に教室に戻り、簡単な自己紹介をして今週の予定を聞く。今日はそれだけで学校は終わり、部活のある者はそれぞれの部活へ、何もない者は帰り始めた。
倉橋は違うクラスの友達と帰るらしく、手を振って教室を出て行った。
俺と清忠も帰ろうと教室を出て数メートル進んだ所で、「あ、椹木くん、ちょっと待って」と呼び止められる。足を止めて振り返ると、新しく担任になった、久世 尊央(くぜ たかお)先生が小走りで俺を追いかけて来た。
「はい、なんですか?」
俺が少し首を傾げで答えると、先生も同じように首を傾げる。
「ああ、やっぱりそうだ。椹木くんて、前に駅で転びそうになってた子だよね?ふふ、俺の赴任先の生徒だったんだね。しかも俺が受け持つクラスの生徒だったなんて…!俺達、縁があると思わない?俺は、また会いたいと思っていたから嬉しいよ。これからよろしくなっ」
そう言うと、俺の頭にぽんと手を乗せて、笑顔で教室に戻って行った。
ぽかんと口を開けて先生の後ろ姿を見ていた俺に、廊下にいた皆んなの視線が突き刺さる。
俺の肩に手を置いて、「え?凛ちゃん知り合いだったの?」と聞いてきた清忠の声に、はっと我に返った。
「う、うん…。春休みにね、銀ちゃんとの待ち合わせに遅れそうになって急いでたら、駅の階段でつまずいて転びそうになった事があったんだ。その時に、助けてくれた人がいて…。それが久世先生…。まさか、新しく来た先生だなんて、びっくりだよ」
「その助けてもらった事って、一ノ瀬さんは知ってるの?」
「うん、その日に言ったよ。…でも」
「うん、何となくわかった。めっちゃ、独占欲ばりばりに、相手の事、怒ったんだろ?」
「清…よくわかったね。そうなんだよ。助けてもらった時に、ちょっとお腹を抱えられたんだよね。それを言ったら『凛に触った』って、すっごく怒ってた…」
「マジか…。その相手が新しい担任で、しかも明らかに凛ちゃんに興味を持ってるって一ノ瀬さんが知ったら…、俺っ、どうしたらいい…?」
話しながら玄関の靴箱の所まで来て、靴を置こうとした清忠が、下から涙目で見上げて来た。
「いや、なんで清が困ってんの?困るの、俺なんだけど」
「だって!絶対に『なぜ担任になるのを阻止しなかった』って、あの人、すっごい理不尽な事言うんだよっ。絶対に言うんだよっ」
「…清…、大丈夫。俺がそんな事言わせないから。銀ちゃんに、清にも優しくするようによく話しておく」
「凛ちゃんっ!」
清忠が、がばりと俺に抱き付く。
ーー清、これ…バレたら怒られるよ?
と、内心思いながら、俺は清忠の背中をなだめるようにとんとんと叩いた。
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