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第197話 甘い果実

清忠が、大きく息を吸い込んで俺から離れる。 「ふわぁ、やっぱり凛ちゃんはいい匂いがして落ち着くわ〜。凛ちゃん、担任の事、一ノ瀬さんに話す?」 靴を履き替えながら清忠が尋ねてくる。 「うん、隠し事をするのは嫌だから、ちゃんと話すよ。まあ…確実に先生を警戒するだろうけど」 「絶対にするっ。一ノ瀬さんに言っておいてよ。先生が怪しい動きをしないように、俺がちゃんと見張ってるからって」 「ふふ、なんだよそれ。でもさ、たぶん先生は新しい学校で、たまたま知った顔に会ってテンションが上がっただけだと思うんだよ。あんなに綺麗で、今日だって、女子にずっと囲まれてたじゃん。そんな人が俺なんかに興味ないって」 「もうっ、凛ちゃんは自分の価値をわかってないなぁ。まあ凛ちゃんは、一ノ瀬さんだけが興味を持ってくれてたらいいんだもんな?先生の話をして、嫉妬に燃えた一ノ瀬さんに抱き潰されないように気をつけろよ?」 「だっ、抱き…っ。もう…っ」 清忠の言葉に反論出来ない。だって、どんな風に話したとしても、銀ちゃんは、絶対に独占欲丸出しで嫉妬する。まあそれを、俺は嬉しく思ったりするんだけど。たぶん清忠の言う通り、抱き潰される気がする。 銀ちゃんに触れられるのは嬉しいから別にいいんだけど、明日も学校があるから、動ける程度にお願いしたい。 悶々とそんな事を考えながら電車に揺られて、清忠と駅で別れて家路に着いた。 夜、銀ちゃんの膝の上で寛いでいる時に、学校はどうだったか聞かれる。 俺は来たっ、と背筋を伸ばし、少しどきどきとしながら銀ちゃんに向き直った。 「今年も清と同じクラスになったんだ。あ、神使の神社の倉橋も一緒だったよ」 「そうか、それは良かった。清忠には凛を守る役目があるからな。同じクラスだと都合がいい」 「…またそんな風に言う。清は俺の大事な友達なんだから、優しくしてあげてよね。それとね…、新しい担任なんだけど…」 「ん、どんな奴だ?」 「それが…、春休みに銀ちゃんと駅で待ち合わせてご飯を食べに行った事があったでしょ?その時に、俺が駅の階段で転びそうになって助けてもらった話、したじゃん。その、俺を助けてくれた人が、新しい担任だった」 話して高い位置にある銀ちゃんの顔を恐る恐る見上げると、ぴくりと眉が動くのが見えた。

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