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第198話 甘い果実
俺の背中に回された銀ちゃんの手に、力がこもる。
「なんだと?そいつ…、もしかして凛を追いかけて来たんじゃないだろうな」
「そんなわけないじゃんっ。偶然だよ。それに、その先生は女子にすごい人気だし、俺なんてただの一生徒にしか思ってないって。俺、怖い先生は嫌だなぁ、って思ってたから、優しそうで良かったって安心したんだよ。だから、あんまり悪く言わないでよね」
「ぐ…っ…、わ、かった…。だが、もし何かされたらすぐに言えよ?」
「うん、わかってるって。まあ、何もないと思うけど…」
銀ちゃんは、どうにも納得出来かねない様子で、顔を寄せて俺の唇を食む。
俺は銀ちゃんの嫉妬に、困るような嬉しいような複雑な気持ちで、銀ちゃんの首に腕を回して強く唇を押し当てた。
案の定、俺は嫉妬した銀ちゃんにしつこく攻められた。
多少は手加減をして抱かれたものの、翌日は痛む腰に耐えながら一日を過ごす羽目になった。
学校が終わると、時折り清忠に腰をさすってもらって家へと帰る。清忠と駅で別れてからは、のろのろと時間をかけてゆっくり歩いた。やっと家に着き、敷地に入った所で、玄関前に佇む人影に気付いて足を止める。
少し様子を伺っていると、俺の視線に気付いた人影が振り向いた。見覚えのあるその顔に、思わず身体に力が入る。
そんな俺に構わずに、その人はゆっくりと近付いて来た。
「よう、久しぶりだな。前に比べてずいぶん顔色が良くなったじゃねぇか」
大きな身体と乱暴な物言いに、俺の心臓が大きく脈打つ。もう今は大丈夫だとわかっているけど、身体が勝手に強張ってしまう。
俺は少しだけ身構えると、ここに来た用件を尋ねた。
「こんにちは…僧正さん。俺に、何か用事ですか?それとも銀ちゃんに?」
「…いや、銀に用はない。俺がおまえの前に顔を出したと知れるだけで、あいつには殴られそうだしな。今日は、おまえに言っておきたい事があって来たんだ」
確かに銀ちゃんが僧正さんに会うと、僧正さんの態度次第で喧嘩になりそうだと思って、苦笑する。
「そうですね。銀ちゃんは、まだあなたの事を許してないかもしれない…。それで、言いたい事ってなんですか?」
「ちっ、あいつもしつこいよな。まあいいけど…。あのな、前に銀が甘く香る人間についての情報を集めてると聞いたんだ。その人間って、おまえのことだろう?」
「そうみたいですね…。自分ではよくわからないですけど…」
僧正さんが、俺の匂いを確かめるように、一歩近づく。
「それで、ちょっと思い出した事がある。俺が子供の頃の話なんだが…。その頃に過ごしていた家の近くに、たまに遊びに来る妖の子供がいてな…」
「え…、妖の子供…?」
それが俺の匂いと何の関係があるのかと、首を傾げて次の言葉を待った。
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