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第202話 甘い果実

早速放課後に、久世先生が使用する国語準備室に呼ばれて、資料をクラスごとに仕分ける作業を手伝う。 先生は、左腕の筋を痛めたみたいで、重いものを持ったり細かい作業をする事がしばらく出来ないと言った。 「あれは、俺自身が足を踏み外して落ちた訳じゃなく、明らかに何かに引っ張られた気がしたんだ。だけど実際、先生は俺を庇って怪我をしたのだから、治るまでは手伝おうと思う」 俺がそう言った時の清忠の顔が、とても険しくなっていた。どうしても久世先生の事が好ましく思えないらしい。 それでも、俺が手伝いを終わるまで「教室で待ってる」と言ってくれた。 「ほんとは一緒に手伝ってもいいんだけど、あいつが俺を邪魔者扱いするからな。傍にいれないのは仕方ない。でも、俺はあいつが凛ちゃんに手を出さないように見張らないといけないから、終わるまで待ってる。何かされたら絶対に俺を呼べよ?すぐに行く」 清忠の頼もしい言葉に、俺は素直に頷いた。 久世先生の指示を受けて、手際よく資料を分けていく。 早く終わりたい思いから、集中して作業を進めた。そんなに量もない事もあって、30分ほどで作業が終わった。 「先生、終わりました。じゃあ、俺は帰ります」 資料を綺麗に積んで、俺はそそくさと立ち上がる。 「早かったね、ありがとう。でもそんなに急がなくてもいいじゃないか。手伝ってくれたお礼にジュースでもおごってあげるよ」 「いえ、大丈夫です。友達を待たせてるので…。失礼します」 「えっ、ちょっと待って…」 久世先生がしつこく俺を引き止めようとしたけど、狭い部屋に2人でいるのが息苦しくて、俺は後ろを振り返らずに部屋を出て行った。 廊下を半分走りながら戻り教室に飛び込む。机に顔を伏せて眠っていたらしい清忠が、俺の足音に驚いて起き上がった。 「えっ、なにっ?…あ、凛ちゃん、終わった?」 「はぁはぁ…っ、うん、終わった…」 「どうしたのっ?もしかして、あいつに何かされた?」 苦しそうに呼吸を繰り返す俺の背中を、清忠がそっと撫でる。 「だ、いじょうぶ…。何もないよ…。でも、先生と2人で部屋にいると、何か嫌な気持ちになって…。少しでも早く離れたくて走って来た…」 「何もないならいいけど…。それはあれだよっ。俺と一緒で、凛ちゃんもあいつが嫌いなんだよっ。そりゃあ、あんだけべたべたして来たら、気持ち悪いに決まってるっ」 鼻息荒く吠える清忠に、少し気持ちが軽くなって、俺は思わず笑ってしまった。

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