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第203話 甘い果実

久世先生の手伝いは、毎日ではないけれど、週に2、3回は用事を頼まれた。 清忠は、初めは教室で待っていたけど、俺にもし何かあったら大変だと言って、俺と先生がいる部屋の外で待つようになった。 そんな清忠の行動を知ってか知らずか、久世先生がだんだんと俺に馴れ馴れしくなっていく。 呼び方も、次第に「椹木」から「凛」に変わっていった。 人に好意を向けられるのは、嬉しい。だけど、その気持ちに応えられないのに、強い気持ちを向けられるのは、申し訳なく思うけど、正直困る。 久世先生が、俺をただの気に入った生徒として見ているのか、或いはそれ以上の感情を持って見ているのかわからないけど、先生と深く関わるのが、だんだんとしんどくなってきた。 久世先生が俺を庇って怪我をしてから、2週間が経った。よくよく見てると、先生は重い教材を普通に左手で持ったり、細かい作業もこなしている。 俺は、先生の怪我はもう治ったのだろうと思い、放課後に国語準備室で手伝っている時に、聞いてみた。 「先生、もう怪我治ってますよね?重い物も平気で持ってますし…。俺、もう手伝わなくても大丈夫ですか?まあ、もしどうしても大変な時は、真葛くんも一緒なら手伝います」 俺の言葉に目を見開いて、先生はすごく残念そうな顔をする。 「そっか…。うん、実は治ってる。でも、凛と一緒にいたかったから、黙ってたんだ…。ごめん。はぁ…、これで凛と関わりが無くなるのは寂しいな。手伝いとか関係なく、またここに遊びに来てくれないか?」 「先生…、先生が俺を気に入ってくれてるのは嬉しいです。でも、一生徒としてですよね?それなら、俺だけをこの部屋に呼んだりとかの、特別扱いはしないで下さい」 「…確かに、俺は凛を気に入ってる。でもそれは、一生徒としてじゃなく、一人の人として…、と言ったらどうする?」 「それなら、俺はもう先生と二人きりになる事はありません。俺には、将来を誓った大切な相手がいます。その相手を不安にさせるような事は、絶対にしたくないから」 俺の答えを聞いた久世先生が天井を仰ぎ、「あ〜あ」と大きな声を出した。そして、ゆっくりと俺に視線を移し、ゾッとするような綺麗な笑みを浮かべて言う。 「違うだろ?おまえ、何相手を間違えてんの?おまえの相手は俺だろ?おまえからは、はっきりと俺の物だという匂いがしてるのに」 「は?え?な、何言ってんの…」 得体の知れない恐怖を感じて、俺は慌てて椅子から立ち上がると、扉へとじりじり後退る。 「おまえを見つけるのにすっげー時間かかっちゃってさぁ、何年もかけてやっと見つけたと思ったら変な妖にマーキングされてるし?傍にはちょこまかとしょぼい狐が引っ付いてるし?腹立つんだよね。だって、おまえは生まれた時から俺のものだって決まってんのに。何勝手に違う奴のもんになってんの?」 「い、意味わかんないっ!俺は誰かのものじゃなくて、自分で銀ちゃんを選んだんだっ!」 「へぇ〜…、銀ちゃんて言うんだ、俺からおまえを取った奴。ちっ、後でお仕置きをしとかないとな」 「何だよっ、それ!銀ちゃんには絶対に手を出すなっ!」 俺が叫んだその時、扉がバンッ!と勢いよく開いて清忠が飛び込んで来た。

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