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第206話 水の檻

閉じた瞼の裏側で、きらきらと光が明滅する。 俺は深く沈んでいた意識を浮上させて、目を覚ました。 ゆっくりと横たえていた体を起こし、辺りを見回す。どこにでもあるような普通の部屋で、俺はベッドに寝ていたようだ。 俺は身体を起こして部屋をぐるりと見回した。部屋には小さなドアと大きなドアがある。そっとベッドから降りて小さなドアに近付く。ドアを開けると、中にはトイレと洗面台、バスタブがあった。 次に大きなドアに近づく。取手に手を掛けて、ゆっくりとドアを開ける。開けた先にある目の前の光景に、俺は思わず大きな声を上げた。 「な、なんだよっ、ここはっ⁉︎」 ドアの向こう側には、水の幕が張ってはり、その奥で名前のよく知らない魚が数匹、泳いでいた。 俺は慌ててドアを閉じると、もう一度、じっくりと部屋を見回した。ふと、顔にチカチカと光が当たるのを不思議に思い、天井を見上げる。そこには、大きな天窓が付いていて、天窓の上にある水の動きに合わせて、射し込む太陽の光がきらきらと揺れていた。 どうやらこの部屋の周りが水で囲まれているらしい。というより、水の中に沈んでると言った方がいいのか…。しかも、部屋には二つのドアと天窓、俺が寝ていたベッド以外、何もない。 ーーなんで俺はこんな所にいるんだ?確か屋上で銀ちゃんを待つ間に、清忠が先生と戦って、それで…。 はっ、と俺は大きく目を見開く。屋上での出来事を思い出し、ぶるりと身体を震わせた。 渾身の力を込めて突撃した清忠の身体は、水の刃となった龍の尾で、簡単に貫かれた。 お腹を貫かれた清忠を持ち上げたまま、先生が俺に近付いて来る。 「ほら、これで静かになった。じゃあそろそろ俺と一緒に行こうか?凛」 「あ…あ…、清、を…離せ…っ」 「んー?凛がそう言うならいいけど」 そう言うと、清忠の身体をどすんっと地面に落とす。 「がはっ…」と口から血を吐き出して、清忠が弱々しく俺を見た。 「凛、ちゃん…、俺はいい、から…逃げろ…っ。もうすぐ、一ノ瀬、さん…が来るだろ…。それまで、俺が防ぐ…から…」 「清っ、喋らないでっ。もういいからっ」 「ふはっ。そんな状態で何が出来んの?まあでも、もしかしてって事もあるし、またうろちょろされたらうるさいし、きっちり始末しとくか…」 水の龍が消え、代わりに水で作った何本もの刀が、清忠の身体を取り囲む。 「やめてっ!もういいだろっ。俺…あんたの言う事聞くから…一緒に行くから…もう、やめて…っ」 「…そう?う〜ん、凛の初めてのお願いだし、聞いてあげてもいいかな」 機嫌良さげに笑った先生が、水の刀を収める。そして、ゆっくりと俺の前に来て、俺の頰をするりと撫でた。 「そういう風に、素直にしてたら狐は殺さないでいてあげる。俺の棲家に行っても、素直に言う事を聞くんだよ?」 くすりと笑いながら、俺の顎を持ち上げて顔を近付ける。唇が触れそうになった瞬間、先生が驚いた顔をして、後ろを振り返った。

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