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第226話 満たされた後

銀ちゃんが、俺の肩に顔を寄せて話し出した。 「実はな、僧正が凛に会いに来た日、俺は用事で郷に行ってたんだ。凛が帰ってくる頃には戻ろうと、急いで飛んで戻って来たら、山の入り口の神社で僧正とばったり会った。こんな所にいるのは、凛に会いに来たとしか考えられないから、何をしていたのか問い詰めた。その時に、僧正から凛らしき人間を捜してる妖の話を聞いた」 その時の事を思い出したのか、銀ちゃんが渋い顔をする。 「僧正は、凛を傷付けたからな。今でも信用出来ん。なのに勝手に凛に会いに来やがって…。慌てて家に帰ると、おまえは疲れていたのか眠ってただろう?起きたら話を聞こうと思っていたが、おまえは何も言わなかった。たぶん、これは全く自分には関係ないと思って気にしてないな、と敢えて俺も何も聞かなかった。まあ俺自身も、僧正の話をあまり気にしてなかったんだが」 一度話を止め、俺の耳朶に口付けてから、再び話し出す。 「それからしばらくして、また僧正から連絡があった。あいつとは、あまり関わりたくなかったが、『前に話した妖の兄に会った』と言う。一応、話を聞こうと、郷から少し離れた場所にある僧正の家に行った。そこに、僧正と蔵翔がいたんだ」 「蔵翔さんが…」 今度は数回、俺の唇に口付ける。 「そうだ。僧正は子供の頃、住んでた家の近くに、よく来る妖の子供と遊んだと言ってただろう?その妖の子供が、蔵翔と尊央の双子の兄弟だ。二人は交代で僧正の所に遊びに来てたらしい。だから最近まで僧正は、遊びに来る子供が二人いた事に気付いてなかったそうだ。尊央が学校の先生になってまでおまえに近付いた事で、蔵翔は尊央がかなり本気で執着してるのだと心配になった。ある時、尊央が『天狗が邪魔だ』と言ってるのを聞いて、ふと僧正の事を思い出して会いに来たらしい」 俺の知らないうちに、周りでそんな事があったのかと驚いて、銀ちゃんを見た。

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