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第227話 満たされた後
「僧正は、すぐに蔵翔が『特別な人間を捜してる』と言ってた妖だとわかって、『捜してる人間は見つけたのか』と問い詰めた。蔵翔は『見つけたが、俺ではない』と答えて、そこで、2人が双子の龍だった事を知った。そして、人間を捜してたのは弟で、すでに目的とする人間を見つけて接触している事、しかもその人間には、想い合う天狗がいる事を聞いた。それに当てはまる人間は凛しかいないからな。すぐに俺を呼んで、教えてくれたんだ。それからは、くろや浅葱、親父も交えて尊央をどうするかを話し合っていた。だが、尊央の行動が思ったよりも早くて、凛を連れ去られてしまった。しかも、清忠まで辛い目に合わせてしまった…」
「銀ちゃん…」
注意が足りなかった俺が悪いのに、自分を責めるように力無く笑う銀ちゃんを見て、胸が痛む。
「凛から連絡をもらった直後、マズいとすぐに学校の屋上に向かったが、おまえは連れ去られた後だった。倒れた清忠の傍にいた倉橋と共に、清忠をすぐに神使の所へ連れて行った。清忠は瀕死だったからな、神使も手こずったようだ。治すのに、夜までかかった。その間にくろに連絡を取って、皆んなを家に集めるように頼んだ。傷の治った清忠を清忠の家に運んでから戻ると、くろ、僧正、浅葱と親父、それに蔵翔が家に来ていた。倉橋から尊央の居場所は聞いていたからすぐに助けに行こうとしたのだが、蔵翔が『無理に奪い返そうとすると、尊央がきれて凛を傷付けるかもしれない。尊央がいない時を見計らって、凛を連れ出そう』と言ったから、様子を見てたんだ。でも、おまえを待たせてしまったせいで辛い目に遭わされたんだな…。すまない、凛」
俺の肩に顔を埋めて、くぐもった声を出す銀ちゃんの頭を、手を伸ばして撫でた。
「ううん。元はと言えば注意してなかった俺が悪いんだし。それに、銀ちゃんは早く助けに来てくれたよ?俺は絶対に来てくれると信じてた。でも、俺のせいで皆んなに迷惑かけちゃったね…。皆んなにも謝らないと…」
「謝る必要などない。皆んな、おまえを助けたくて自ら動いたんだ」
「だとしたら、嬉しい…。じゃあ、謝るんじゃなくてお礼を言いたい。ところで、鉄さん達はどうしたの?」
「ふっ、そうそう、一番大事なことを話さないとな。くろ、僧正、親父、浅葱の4人は、俺と蔵翔が凛を連れ出した時、湖の離れた場所にいたんだ」
「えっ!そうだったの?じ、じゃあ…俺の恥ずかしい姿を…」
「大丈夫だ。俺が他の奴らには見えないように、しっかりと抱きしめていたからな」
そう言いながら、銀ちゃんがくるりと俺の身体の向きを変えて、正面から抱きしめた。
「4人は、湖に引き返して来た蔵翔と共に、尊央が戻って来るのを待った。そして、戻って来たところを捕まえて、神社まで連れて来たんだ。おまえを不安にさせたくなかったから、黙って眠ってる間に会ってきた」
俺は少し肩を震わせて、銀ちゃんを見上げる。銀ちゃんが俺の額に唇を当てて、優しく名前を呼んだ。
「凛…、もう大丈夫だ。尊央はおまえの前には現れない。捕まえる時に暴れたらしいが、尊央と同等の力を持つ蔵翔に、天狗族の中では片手の指に入る強さの3人が相手では、手も足も出なかったようだ。それでも尊央は、神社で俺と会ってからも、まだ『凛と別れろ』とかほざいていた。だから、奴の髭を抜いてやった。龍はな、髭を抜かれると力が出せなくなる。驚くほど大人しくなった尊央を、蔵翔が連れて帰った。二度と、凛の前に姿を見せないと約束させてな」
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