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第228話 満たされた後
俺は安堵すると共に、少し先生を可哀想に思った。
「そっか…、良かった。もう銀ちゃんと離れる心配はない…?」
「ああ、安心しろ。ずっと一緒だ」
銀ちゃんを見上げてほっと息を吐き、たくましい胸に頰を擦り寄せる。
「ねぇ…、抜いたっていう髭はどうしたの?」
「ん?ああ…蔵翔に渡してある。月日が経って、本当に尊央がおまえの事を諦めたら、返してやるように言っておいた」
俺は勢いよく顔を上げて銀ちゃんを見た。胸の奥が震えて、顔が綻んでいく。
ーー銀ちゃんはとても強い。たぶん、清忠がされたように、先生を痛めつける事も出来たんだ。でも、俺が暴力が嫌いな事をわかってるから、感情のままに相手を殴ったりしない。今回は髭を抜いて、力を無くさせるだけにした。先生は、清忠や俺にひどい事をしたから、俺は正直先生が怖い。でも、力を失って可哀想だとも思う自分がいる。きっと、俺がそう思う事もわかってて、銀ちゃんは、蔵翔さんに後のことを任せたんだ。
俺は銀ちゃんへの強い想いが溢れてきて、銀ちゃんの首にしがみ付いて顔を寄せると、強く唇を押し当てた。俺から舌を伸ばして、銀ちゃんの口内に入れる。夢中で銀ちゃんの舌に絡ませていると、後頭部を押さえられて、あっという間に主導権を握られてしまった。
「ふぁっ、んぅ、ん…っ、ふぅっ」
たっぷりと舌を絡めて、流れ込んできた唾液を飲み込んだ。俺の全身がとろとろに蕩けてしまい、力が抜けて銀ちゃんに寄りかかる。
はぁっ…と荒く息を吐きながら、俺は困って銀ちゃんを見た。
「明日…倉橋の家に避難するって話はどうするの?」
「…蔵翔が『念の為隠れろ』としつこかったから倉橋に頼んだんだが。もう隠れる必要はないな。でも、凛が行きたかったら行っていいぞ。友達とお泊まりとやらもしたいだろう?清忠と行って来い。というか…、もちろん俺もついて行くが…」
「ほんと?俺、倉橋の家にも行きたいけど、銀ちゃんとも離れたくないから良かった。じゃあ早速、明日の準備しないとっ」
「待て。明日起きてからで充分間に合うだろう。今日はゆっくりと休め。俺の傍にいろ」
「うん、わかった。ふふ、銀ちゃん…好きだよ」
「ああ、凛…愛してるぞ」
お互い見つめ合って、ゆっくりと顔を近付けて、また長い時間、キスを繰り返していた。
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