242 / 287

第242話 天狗の花嫁

鉄さんの家の庭を見せてもらってる間に、食事の用意が出来たらしく、客間らしき部屋に案内された。 そこは、和室が多い天狗の郷の中では珍しく、板張りの洋室だった。白い壁紙の広い部屋の真ん中に、10人は座れそうな大きなテーブルがある。テーブルの上には、チキンの香草焼きや色鮮やかなサラダ、スープにパンと、お洒落な店のランチのような料理が並んでいた。 鉄さんが上座に座り、テーブルの角を挟んで銀ちゃん、隣に俺が座る。皮がパリパリに焼けているチキンから香るいい匂いに、俺のお腹がぐうっと鳴った。 「ふっ、ずいぶんと可愛らしい音だな。朝が早かったからな。たくさん食べろよ?」 「う…ごめん。美味しそうだったからつい…」 俺が照れ笑いを浮かべているところへ、扉が開いて、綺麗な女の人が二人、入って来た。 「あら、もう食事の準備が出来てるの?来るの、遅かった?」 「今出来上がったところだ。ほら、おまえ達はこっちに座れ」 鉄さんが、俺と銀ちゃんの向かい側の席を示し、二人が示された席に腰かける。 座った二人に目を向けると、前に一度会った事がある鉄さんの妹さんと目が合った。彼女はにこりと俺に微笑んで、話しかけてきた。 「お久しぶりでいいのかしら? 鉄の妹の茜です。あなたは、銀様のお嫁さんでいいのよね?」 「あっ、はいっ。凛と言います。よろしくお願いします」 慌てて頭を下げると、隣の銀ちゃんにふわりと髪の毛を撫でられた。 「ふふっ、仲良いのねぇ。銀様もお久しぶり。なんだか、兄様よりも幸せそうね」 茜さんは、この前は紺色のワンピースを着てたけど、今日の白地に小花柄のワンピースもよく似合っている。それに、茜さんもどことなく銀ちゃんに似た綺麗な顔をしている。 「茜に翠。久しぶりだな。改めて紹介する。俺が契約した花嫁の、凛だ」 銀ちゃんの紹介に合わせて、再びぺこりと頭を下げた。 すぐに頭を上げると、俺の目の前に座る翠さんと目が合った。白のブラウスに鮮やかな赤のスカート姿の彼女は、俺ににこりと微笑んだけど、目が笑ってないように見えて、俺の中に不安が広がる。 ーー俺の出自の事で、よく思われてないのかもしれない。皆んながみんな、祝福してくれるとは限らないよね…。 そう思って暗くなりかけたけど、明日はおめでたい日なのだから空気を暗くしちゃ駄目だと、俺も翠さんに笑い返した。

ともだちにシェアしよう!