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第245話 天狗の花嫁

茜さんから事の顛末を聞いて、だんだんと険しくなる銀ちゃんの顔を見ながら、俺はぐるぐると考えていた。 銀ちゃんの子供の事を考えてなかったわけじゃない。俺と一緒になると、銀ちゃんは子供を抱けないよなぁ…という思いが、常に頭の隅にあった。 だけど、銀ちゃんの傍にいる事が心地よすぎて、あまり深くは考えないようにしていた。銀ちゃんもそんな事は充分承知した上で、俺を選んでくれたのだろうし。 でも、翠さんに言われたことが、ひどくショックだった。 もし子供を作る為に銀ちゃんが彼女を抱くなんて事があったらと考えたら、死にたくなるほど辛く悲しくなった。 それ以上に、俺は銀ちゃんに子供を抱かせてあげられない事が、改めて申し訳なく思い悲しかった。 俺は、涙でぐしゃぐしゃの顔を銀ちゃんに向けて、震える声を絞り出す。 「ぎ、銀ちゃん…っ、ご、ごめんっ、ね。俺…銀ちゃんの、子供っ、産んであげれない…っ」 銀ちゃんは、俺を広い胸に抱き寄せて、あやすように背中を撫でてくれる。 「凛、凛は、俺が凛の子供を産めないから、俺と別れて女の人と一緒になってくれ、と言ったらどうする?」 「いっ、嫌だっ!俺っ、銀ちゃんじゃないと嫌だっ。他には何にもいらない…っ。銀ちゃんが傍にいてくれたらっ、それで…いい」 耳の側で囁かれた銀ちゃんの言葉に、俺は全力で抗議する。 「だろ?俺も同じだ。おまえさえいてくれたら何もいらない。おまえほど、愛しいと思えるものなど、この世に存在しない。凛、変に気を回して二度とそんな事を言うなよ?次言ったら怒るぞ?」 「や、やだ…。銀ちゃん、怒ると怖い…」 「おまえに怒った事などないだろうが。でも、わかったな?」 「うん…。言わない」 「よし、いい子だ」 俺の返事に満足した銀ちゃんは、にこりと微笑んで、俺の頰に口付けた。 「なんか…」 ぽつりと聞こえた茜さんの声に、俺は顔を上げて彼女を見る。茜さんは両手を頰に当てて、赤い顔をして俺を見ていた。 「なんか胸がきゅんきゅんする…っ。凛さん…可愛い…。凛さんを見てると、抱きしめて頬ずりしたくなるわっ。銀様が凛さんを溺愛するのが、私…わかる気がする!」 そう言って、俺に手を伸ばして髪の毛を撫でる。 「あらやだ。凛さんの髪の毛、柔らかくて気持ちいいのね。本当に可愛い。ね、また翠に何か言われたら、すぐに教えてね。私は凛さんの味方よ」 「…ありがとうございます…。それと、俺、みっともなく泣いてしまって…。ごめんなさい…」 俺が小さく頭を下げて謝ると、茜さんはにこりと笑って、俺の髪の毛から手を離した。そして俺の手を握り、驚いた声を上げた。 「まあっ…手も華奢で綺麗なのね…。羨ましいわ。ふふ、凛さんの泣き顔、とっても可愛くて萌えたからいいのよ。また今度、ゆっくり話しましょう。私、あなたみたいな弟が欲しかったの。これからも仲良くしてね?」 「はい、もちろんですっ。それに…俺のこと、呼び捨てでいいですよ」 「そう?じゃあ凛、私のこと『おねえちゃん』って呼ん…」 「おい、やめろ。それと、凛に触り過ぎだ。もういいだろう」 「わぁ…こわい…」 銀ちゃんが茜さんに冷たく言い放つと、俺の手から離させる。そして、俺を抱き上げて、「じゃあ明日な」と言って、鉄さんの家を後にした。

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