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第246話 天狗の花嫁

銀ちゃんの実家に戻ってからは、いつも通りにしてたつもりだったけど、やっぱり元気がなかったらしく、夜、布団に入ってから銀ちゃんが俺を抱き寄せて聞いてきた。 「凛、まだ何か心配してるのか?」 俺は銀ちゃんの胸に顔を擦り寄せ、くんくんと匂いを吸い込んでから銀ちゃんを見る。 「うん…。銀ちゃんは俺の傍にずっといてくれるってわかってるし、俺も大好きな銀ちゃんから離れない。でもね、今日翠さんから子供のことを言われて改めて考えさせられたんだ。ねぇ、銀ちゃん…、ほんとに子供はいらないの?明日、式を挙げる鉄さんには、いつか子供が生まれる。その子供を抱かせてもらうこともあるでしょ?その時に、自分の子供のことを考えない?『凛といる限り、俺には子供が出来ない』って思わない?俺、怖いんだ。銀ちゃんは俺を愛してるってわかってるよ。でも、いつかそう思う時があるんじゃないか…って、怖い…」 気づかないうちに、涙がぽろぽろと流れ落ちている。俺は、俺への銀ちゃんの愛を信じてる。でも、ふとした瞬間に、『凛じゃなければ…』と思われたら…と、不安になるんだ。 銀ちゃんは大きく息を吐くと、少し怖い顔をして俺を真正面から見つめた。 「凛。これ以上、俺を怒らせるなよ。おまえが不安なら何度でも言ってやる。俺は、おまえほど大切に思える存在はいないし、これからも出来ない。おまえが俺のすべてだ。なぁ、凛。これは前からいずれはと思っていた事なんだが…。今から、俺ともっと深い契約を結ぼう。この契約は、正に、一心同体なんだ。契約を交わした相手が死ぬと時を経ずに自分も死ぬ。恐ろしく強力な呪術だ。俺は、おまえがいない世界では生きていけないからな。おまえが鉄に襲われて崖から落ちたあの時から、この契約の事を考えていた。どうする凛。おまえにまだまだ寿命が残っていても、俺にもしものことがあったらおまえも死ぬ。そんな恐ろしい契約を、俺と交わすか?」 「するっ!そんなの、考えるまでもないよっ。俺だって、銀ちゃんがいない世界でなんて、生きていけない…っ」 「凛…、もし俺が他の妖と戦って、心臓を貫かれたとしよう。そうしたら、おまえも心臓を貫かれた痛みを感じて死ぬんだぞ?本当に怖くないか?」 「全然。銀ちゃんを失うことほど、怖いものなんてないから」 「ふ…、おまえはすぐ泣くくせに変なところで強いんだ…。そんなところも愛しい…」 「ふふ、銀ちゃんは強いのに、意外と心配性だよね。ね、早くその契約を結ぼう。また血を舐めればいいの?」 見上げて尋ねる俺の顔を、銀ちゃんが両手で包む。 俺を見つめながら話してくれた契約の成立方法に、全身に鳥肌が立った。

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