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第252話 天狗の花嫁

翌朝、顔がくすぐったくて目が覚めた。俺の頰をくすぐる何かから逃れようと、顔を背けて目を開ける。至近距離に銀ちゃんの顔があって、眩しい笑顔を見せていた。 「んぅ…、おはよ…。何してんの?」 「おはよう。凛を愛でていた。もう起きるか?」 「愛でて…。銀ちゃん、ほんとに俺のこと好きだね…」 「ああ、好きだ。おまえは?」 「大好きだよ…って、朝からなんか恥ずかし…。あ、外いい天気みたいだね。良かった。それにちょうどいい気候…。前から思ってたけど、天狗の郷って、夏でもそんなに暑くなくて過ごしやすいよね」 「そうだな。かなり山の上にあるからじゃないか?凛、今日は郷中の者が皆、鉄の式を祝う為に出てくる。それだけじゃなく、俺が契約したおまえのことも見るだろう。かなり不躾な目で見てくる者もいるかもしれない。大丈夫か?」 「うん、大丈夫。なんか、今まで感じたことのない力が湧いて来るような気がするんだ。これって、昨夜交わした契約のせい?」 「そうかもしれないな。俺もそうだ。それに…ほら、見てみろ。この傷、治ってきてるだろ?」 銀ちゃんが、袖をめくって抉れていた傷を見せる。驚いたことに、血の滲んでいた傷口が、今は薄いピンク色になって、あまり目立たなくなっていた。 「えっ、すごい…!舐めなくても治ったの?銀ちゃん、無敵だねっ」 「小さな傷だからだろ。俺も、昨夜の契約からすごく力が漲っているんだ。おまえが俺を強くさせたんだ。凛、おまえのことは、俺が必ず守るから傍を離れるなよ?」 「うん、わかった。それに俺のサプライズ…手伝ってね」 「ああ、任せておけ」 ーー結婚式に出席するのなんて初めてで、とてもわくわくして気分が高揚する。心から2人の幸せを願って、精いっぱい、祝おう。 幸せな気持ちになって、にまにまとしている俺を見て、銀ちゃんが、「おまえのそんな顔を見てると俺まで嬉しくなる」と言って笑った。

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