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第253話 天狗の花嫁
軽めの朝食を食べてから、歯を磨いて顔を洗い、髪の毛を整えた。
部屋に戻ると、銀ちゃんが俺に着物を着せてくれた。その後で、銀ちゃんが着物を着ていく様子をじっと見つめる。着ていく動作ですら、とても綺麗でかっこいい。
俺がぼーっと見惚れていると、着終わった銀ちゃんが俺の前に来て、前髪をそっと撫で付けた。
「凛、そろそろ行こうか」
「うん…、あっ、待って。その前に写真…」
俺は慌てて鞄からスマホを取り出して、銀ちゃんを撮る。「うんっ、かっこいいっ」と悶えてるところへ浅葱が入って来たから、銀ちゃんと2人で撮ってもらった。
すぐに2人並んだ写真を確認する。銀ちゃんは、気品があってよく似合っていてとても綺麗だ。その隣の俺は、なんだか七五三のようで、思わず苦笑いをした。
でも、銀ちゃんは2人の写真を見て、とても嬉しそうに笑った。それに、早速、自分のスマホの待ち受けに設定したようだった。
スマホを鞄にしまい、銀ちゃんと部屋を出る。玄関に向かう廊下の途中で、縹(はなだ)さんと紫(ゆかり)さんに会った。
縹さんも、銀ちゃんとお揃いの黒の紋付羽織袴姿。紫さんは、黒地に裾に大柄な花の絵が描かれた着物を着ていた。
俺を見るなり、紫さんが駆け寄って来て、俺の手を両手で包んだ。
「まあっ!凛ちゃん、とてもよく似合うわっ。それに、なんだかとても綺麗よ?なにかした?」
「うん、本当に綺麗だね。着物が似合うから、そう見えるのかね?」
「2人とも、何言ってる。凛は元から綺麗だ。今日は凛のお披露目も兼ねているだろう?俺は早く、皆んなに見せびらかしたい。凛は、俺の自慢の宝だからな」
「そうね。私たちの自慢の家族でもあるわ。凛ちゃん、もしかしたら嫌な目で見られたり、こっそりと、嫌な事を言われたりするかもしれない。でも、銀が守ってくれるし、私達も見守ってるから…。堂々としてたらいいのよ」
俺は紫さんの手を離し、一歩後ろに下がって背筋を伸ばす。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます…。あの…、縹さん、紫さん、一族でもない人間の俺を、しかも男の俺を、銀ちゃ…銀さんの花嫁と認めて下さって、ありがとうございます。俺、銀さんに出会えたことが最高の幸せですけど、縹さんや紫さん、それに浅葱…、その他の天狗一族の皆んなと知り合えたことも幸せです。俺は全然頼りないですけど、銀さんを必ず幸せにします。これからも、よろしくお願いします…」
そう言うと、深く頭を下げて、込み上げてくる涙を堪える。何度か瞬きをしてから頭を上げると、紫さんが目を真っ赤にして、俺に抱き付いた。
「そんなのっ、私達こそ凛ちゃんに出会えて幸せよ。凛ちゃん…、凛ちゃんが隣にいるだけで銀は幸せなんだから、頑張り過ぎちゃ駄目よ?それで、たまには私とお出掛けしてね?」
「もちろんです。俺は、紫さんのこと、大好きですから」
「もうっ、可愛いっ!凛ちゃん…昨日は晩ご飯食べなかったでしょ?今日は、一緒に食べましょうね?」
「はい」
「おい、今日は宴会になるんじゃないのか?それに、明日には俺達は凛の家に帰るからな。残念だが、晩飯は次回までお預けだ」
「じ、じゃあ、宴会は私の隣に座ってね?」
「母さんは親父の隣。俺達は隅の方で2人の世界に入ってるからお気遣いなく」
「銀ちゃん…。紫さん、またすぐに遊びに来ますからその時に…。俺の家にも、よかったらいつでも来て下さい」
「まあ…っ、凛ちゃんは本当に優しいわねぇ。じゃあ、またすぐに遊びにいらっしゃいね」
俺が笑って頷くと、縹さんが「凛くん、銀がいなくても、気兼ねなく来なさい」と言ってくれた。
その後に少し慌てて、「そろそろ行かないとマズい」と言ったので、皆んなで急いで家を出た。そんな俺達を、浅葱が微笑みながら見ていた。
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