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第254話 天狗の花嫁
天狗の郷の中に古の大天狗を祀る神社があって、鉄さんの結婚式は、そこで挙げられる。
郷の皆んなは、神社の外で待ってるのだけど、俺は特別に、銀ちゃんと共に中で参列させてもらった。
ずらりと並ぶ天狗一族の迫力に、俺は怯みそうになる。今までの俺なら、銀ちゃんの陰に隠れてしまっただろう。だけど、新たな契約を交わして、俺は強くなったんだ。
俺は銀ちゃんの隣で顔を上げて、ジロジロと見てくる周りの視線に、にっこりと笑顔を向けた。訝しげな視線を俺に向けていた人達が、一瞬動きを止めてからバツが悪そうに視線を逸らす。幸いな事に、俺を不躾に見てはくるけど、声に出して罵る人はいなかった。
「凛、大丈夫か?」
「うん、銀ちゃんが傍にいるし、大丈夫だよ。俺さ、今どんな事が起きても乗り越えられる自信があるんだ。これってやっぱり、昨夜の契約のおかげだと思う」
俺を気にかけて覗き込んでくる銀ちゃんに、満面の笑顔を向けた。
「そうか。俺は、おまえがどこかに行ってしまわないかという不安が無くなったな。あと、もっとおまえが愛しくなった。いつでも触れていたい。今、触れては駄目か?」
ふわりと俺の頰を撫でる銀ちゃんの手を、慌てて掴まえて下に降ろした。
「駄目だよっ。これから厳かな式が行われるんだから。ちゃんと鉄さん達を祝わないと…っ。終わったらいくらでも触っていいからっ」
「…仕方ない。終わったら思う存分触るぞ?」
「う、うん…、わかった。だから今は我慢だよ?」
小声でやり取りをして、何とか銀ちゃんを宥めたけど、結局は席に着いた時に、座った俺達の背中に隠すように手を繋がれた。
俺は小さく溜め息を吐いて首を傾げる。
ーーなんか…昨夜の契約で、銀ちゃんが我が儘になってる?我が儘っていうより、俺に甘えてる?ふ…ふふ、ヤバい。銀ちゃんが可愛い。強くてかっこよくて大人な銀ちゃんが、俺にだけ甘えてくれる。それって、すっごく嬉しいっ。
そう思うと、自然と口角が上がって、思わずにやにやとしてしまった。ふと、端に控えていた浅葱と目が合って顔を引き締めたけど、不可解な顔をされた。
少し待つと、雅楽の演奏と共に、鉄さんと花嫁さんが入って来た。黒の紋付き羽織袴姿の鉄さんは、上品でとても綺麗だ。白無垢姿の花嫁…杏さんも、目が大きくてとても可愛い。俺は、まるで雛人形のように艶やかな2人に、目が釘付けになった。
式は滞りなく進んで、今は三三九度の盃を交わしている。俺と銀ちゃんも、いつかあんな風に誓うのだろうか。銀ちゃんが黒の、俺が白の袴姿を想像して、いいかもしれないと、一人頷いた。
式が一通り済んで、参列者は社殿から出て境内で2人が出てくるのを待った。
今から2人は、郷の皆んなに無事に式を終えた事を知らせる為に、鉄さんの家まで歩くらしい。式に参列した俺達も後について行き、そのまま鉄さんの家でお祝いの宴会をするそうだ。
しばらくして、鉄さんに手を引かれて杏さんが出て来た。境内にいた参列者が、口々に2人にお祝いの言葉をかける。俺も手を叩いて、2人に「おめでとう!」と声をかけた。
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