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第255話 天狗の花嫁

鉄さんと杏さんの前を、2人を守るように浅葱と織部さんが進んで行く。今日は、いつもはスーツの織部さんも、紋付袴を着ている。その後ろを式を挙げた2人が続き、2人の後ろをそれぞれの両親が歩いて行く。 たぶん後は、それぞれの兄弟や親族が続いてるのだろう。 俺と銀ちゃんは、列の最後尾を手を繋いでゆっくりと歩いた。 沿道で、「おめでとうっ」と叫んでいた人達が、俺の姿を認めると急に黙り込む。中にはちらほらと、「銀様もおめでとうございます」と声をかけてくれる人もいた。声をかけられると、銀ちゃんが「ありがとう」と微笑むから、俺も隣で笑顔を見せた。 ちょうど、神社から鉄さんの家の半分くらいの場所に来た。俺は銀ちゃんを見上げて、「そろそろいいかな?」と尋ねる。銀ちゃんは、繋いだ手を持ち上げて、「思いっきりやれ」と言って笑った。 俺は、銀ちゃんの手を離すと、袂に入れていた和紙を取り出した。桜の花びらの形に切った数枚の和紙を、左の掌に乗せて、右手の人差し指と中指を立てて和紙に押し当てる。 そして、倉橋の家に泊まった時に、倉橋から教えてもらった言葉を唱えた。 唱え終わると、掌を口元に持ってきて、強く息を吹きかける。ふわりふわりと、和紙の桜が宙を舞う。そこへ、銀ちゃんが扇子を取り出して、強くあおいだ。 途端に辺りがどよめき出す。 「え?なに?」 「わぁっ、すごい!」 「これって…桜?」 「えっ、なんで?今って7月だよな?」 「そんなの、どうだっていいじゃない。だって、こんなにもキレイ…っ」 一瞬で、郷の中が桜吹雪に包まれる。ひらひらと無数の桜の花びらが、際限なく降り注ぐ。そのとても幻想的な光景に、自分で仕掛けておきながら、俺は目に涙を浮かべて感動で震えていた。

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