259 / 287

第259話 番外編 椹木 蓮の花嫁

凛に可愛く微笑む茜を頰を緩めて見てると、正面から視線を感じた。目を向けると、俺の向かい側に座る、凛の恋人だという男が、俺をじっと見ていてドキリとした。 「え〜と…凛、この人が凛の?」 「え…?あ、うん。母さんから聞いてると思うけど、俺の恋人の、一ノ瀬 銀さん。えと、茜さんの従兄弟だよ。茜さんとは、茜さんのお兄さんを訪ねて行った時に、一緒に食事したんだ」 「えっ!そうなんだ…。だから、凛と茜は顔を知ってたんだな」 「そういうこと。え…っと兄ちゃんは、茜さんが、あの…」 「うん、知ってる。あ、という事は銀さんも?」 茜が天狗だという事は、出会った時から知っている。その茜と従兄弟なのだから、当然凛の恋人のこの男も天狗なのだろう。 「俺は天狗一族の頂点に立つ、一ノ瀬 縹(はなだ)の息子だ。茜は、俺の親父の弟、一ノ瀬 蘇芳(すおう)の子供だ。そして、茜の兄の鉄が、つい先日に結婚をして、いずれ天狗一族を統べる」 彼のとても綺麗な顔に見惚れていたけど、低く響く声も耳に心地良くて、思わず聞き入ってしまう。実際、隣に座る凛が、頰を染めてぼーっと銀さんを見つめていた。 凛に甘い笑顔を向けた銀さんが、凛の頰をすりすりと撫でて、凛が見たこともない蕩けた表情をしている。 我が弟ながら、ちょっとだけ可愛いじゃないか…と思ってしまったその時、隣から小さな悲鳴が聞こえた。 「きゃぁっ、可愛い〜っ。ねぇ蓮、今の見た?凛は、銀様の前だとあんなふにゃふにゃの顔をするの。可愛いでしょ?すっごく萌えるのよ」 興奮気味の茜に、俺は口をぽかんと開けて茜を見た。茜と凛が、すでに仲が良いのはいい事だけど、少し可愛がり過ぎじゃないか?俺は、苦笑しながら居住まいを正して、向かいに座る2人に、馴れ初めを尋ねた。 銀さんの話によると、凛が5才、俺が8才の頃、凛が俺からはぐれて山の中で泣いてるところを、銀さんが見つけたらしい。凛を、家の近くの神社まで送ってくれて、その日から銀さんに懐いた凛と、頻繁に会って遊んだそうだ。 そして、俺と凛が東京に引っ越す事が決まった時に、花嫁の契約を交わしたそうだ。 確かに昔、凛はよく1人で遊びに出掛けていた。 一度、気になった俺は凛の後を付いて行った事がある。だけど、途中で見失ってしまったんだ。そして、困って山の中をとぼとぼと歩いている時に、転んで泣いている茜と出会った。

ともだちにシェアしよう!