260 / 287

第260話 番外編 椹木 蓮の花嫁

「ねぇ、兄ちゃん達はどうやって出会ったの?」 身を乗り出して聞いてくる凛の肩を、銀さんが落ち着かせるように優しく抱く。弟が可愛がられてる姿を見るのが何だかむず痒くて、俺はほうじ茶を一気に飲み干すと話し出した。 「週末になると1人で遊びに出掛けるおまえが気になって、後を付けた事があるんだよ。山に入ってすぐに見失ってしまったんだけどさ。困って山の中をウロウロとしてる時に、背中に黒い翼が生えてる茜と出会ったんだ。俺は、一目見て、なんて綺麗なんだと惹きつけられた…」 「私もね、山に入って行く銀様を見て、一緒に遊んで欲しくて後を付いて行ったの。でも銀様は飛ぶのも速くてすぐにはぐれてしまって…。しかも転んで足と翼を痛めて動けなくなってたの。そこに蓮が現れてね…。私を背負って山中を歩き回って、何とか私が知ってる道まで連れて来てくれたのよ。蓮ってば、とってもかっこいいし優しいし、私の翼を見ても怖がらなかったし…。その日からずっと、蓮の事ばかり考えていたわ。でもどうやって会えばいいのかわからなくて…。月日だけが過ぎていったの」 「俺も茜を忘れた事はなかった。ずっと会いたいと思ってたんだ。そうしたら俺が高校1年の時に、駅で人にぶつかられて鞄の中身をぶち撒けて困ってる人がいて…。中身を拾うのを手伝って顔を見合わせたら茜だった。何年も会ってなかったけど、お互いすぐにわかった。俺は運命だと思ってソッコー告白した。それから付き合い出して、一年後には契約を交わした」 当時を思い出したのか、眩しい笑顔を浮かべる茜の髪をそっと撫でる。ふと視線を感じて前を見ると、凛が真剣な表情でじーっと俺を見ていた。 「んっ、コホンっ…。茜は中学から東京の有名私立学校に通ってたんだ。そのままエスカレーターで進学して、俺の一個下だから今年から大学生になった。茜は、俺の家の近くにマンションを借りていて、俺はほとんど茜の部屋で過ごしてる。それで、茜が大学を出たら結婚したいと思ってる」 俺の話を聞いて、凛が嬉しそうに笑った。 「そっかぁ。2人ともお似合いだよっ。もう一緒に住んじゃえばいいのに〜」 「うん…でもまあ、まだどちらの親にも挨拶してないしさ…」 「茜の両親にはいつ挨拶に行くのだ?」 静かに響く銀さんの低い声に、なぜか俺の肩がビクッと跳ねた。 「あ、はいっ、あの…今日はここに泊まって、明日挨拶に行く予定です…っ」 俺は背筋を伸ばして勢いよく答える。 とてつもなく強いオーラを放つ銀さんを前にして、この家に来てからずっと緊張してるというのに、明日の事を考えて、ますます落ち着かなくなってきた。

ともだちにシェアしよう!