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第267話 番外編 真葛 清忠の幸せへの道

翌朝、見事に腫れた俺の瞼を見て、凛ちゃんが悲鳴を上げた。 午前中の授業が終わるまで待って、お昼休みにお弁当を持って人気のない中庭の端に行き、凛ちゃんに昨日の事を一通り話した。 話し終えると、凛ちゃんが泣きそうな顔をしていて、それを見た俺も、また涙が溢れそうになる。 俺は何度か目を瞬かせると、凛ちゃんに笑って言った。 「俺さ、今日学校に来たら俺が妖狐だって事がバレて大騒ぎになってると思って、ドキドキしちゃったよ。学校中の皆んなの記憶を消すか、学校を辞めなきゃなぁ…て考えてた。でも、皆んないつもと変わらなくてさ。加瀬さん、俺の事、誰にも言ってないんだな」 「ねぇ清、いずれは彼女には言うつもりだったんだろ?彼女、誰にも言いふらしたりしてないって事は、昨日は、ただ驚いて逃げてしまっただけなんじゃないかな?」 「そうだといいけどな…。卑怯だけどさ、加瀬さんから俺の記憶を抜くよ。俺には、まだまだ凛ちゃんみたいな恋愛は無理だったなぁ…」 「清…」 まだ何か言いたそうな凛ちゃんを見ないようにして、「あ、そうだ。今週末は久しぶりに凛ちゃん家に行っていい?そろそろ一ノ瀬さんにも顔を出しとかないと」と、忙しく喋り続けた。 放課後、凛ちゃんと学校の門を出ようとすると、後ろからまた「真葛くん、ちょっといい?」と話しかけられた。 もう何度も聞いた声で、後ろを向かなくても誰だかわかる。俺は前を向いたまま、「何か用?」と言った。途端に後ろで、加瀬さんが息を詰める気配を感じた。 俺は、加瀬さんから逃げようと足を一歩前に出したところで、凛ちゃんに肩を掴まれて身体を反転させられる。俯いて震える加瀬さんを目にした俺に、凛ちゃんが、「俺、銀ちゃんと待ち合わせしてるからっ。じゃあなっ。ちゃんと話し聞いてやれよっ」と言って、手を振りながら走り去ってしまった。 俺は、呆然と凛ちゃんの後ろ姿を眺めていたけど、ずっと逃げてるわけにはいかないと覚悟を決めて、「前の場所でいい?」と言って、歩き出した。 今度は俺が先を歩いて校庭の端へ行き、加瀬さんを振り返る。加瀬さんを真っすぐ見つめると、彼女も俺を見ていた。 「昨日はごめんね?俺が遠回りしようと言ったばっかりに、あんな不良に囲まれて。しかも怖い思いさせちゃったね。俺の姿、怖かっただろ?」 少し自虐的に言って、俺は笑みを浮かべる。 「こんな俺とは付き合えないよね。大丈夫だよ。怖かった記憶は俺がちゃんと消して…」 「いや…っ」 俺は一瞬、何が起きたのかわからなくて固まってしまう。気がつくと、加瀬さんが俺に抱きついて、ぎゅうぎゅうと強くしがみ付いていた。 「え?か、加瀬さんっ?」 「いやっ!別れるとか言わないでっ。真葛くん、ごめんね。私、助けてもらったのに、お礼も言わずに逃げちゃって…。私、驚き過ぎてパニックになって逃げちゃったけど、真葛くんの姿、全然怖いなんて思わなかったっ。むしろ、すっごいカッコよかった…!昨日から思い出す度に胸がドキドキして…。もっと好きになったの。だから、別れたくないっ。もう一度言います。私と付き合って下さい…っ」 俺にしがみ付いたまま、顔だけ上げて、涙をぽろぽろと零しながらの告白に、俺の心は一気に鷲掴みにされてしまった。 俺は、ふっ…と笑うと、加瀬さんの前髪を上げて額にキスをした。一テンポ遅れて、「ひゃあっ」と悲鳴を上げた加瀬さんが俺から離れようとするのを、強く抱き寄せる。 「ま、真葛くん…?」 「ごめん、加瀬さん。俺、絶対怖がられて嫌われたって思って、ヤケになってた。まさか、俺のあんな姿を見て、それでも好きだって言ってくれるなんて、思いもよらなかった。ありがとう。俺、加瀬さん…茉由ちゃんを大事にする。だから、俺の恋人になって」 「うん!こちらこそよろしくお願いします…っ。き、き、清…くん…っ」 「……っ!」 茉由ちゃんのあまりの可愛さに、俺は全身で悶えた。 もしかして一ノ瀬さんは、凛ちゃんの隣で、こんな満たされた愛しい気持ちを抱いてるんだろうか…と、なんとなく一ノ瀬さんの事を、理解出来たような気がした。 …end. 【おまけ】 茉由ちゃんと恋人になった日の帰り、立ち寄った凛ちゃん家にて。 「一ノ瀬さんっ、俺にも遂に恋人が出来ました!」 「へぇ。妖狐?人間?」 「人間の可愛い子なんです。ね?凛ちゃん」 「うん、とっても可愛くていい子だよ。清が妖狐だって知っても、気持ちが変わらなかったんだって。あんなにいい子は他にはいないから、大事にしたげなよ?」 「わかってるって。うふふふ……。俺、家に帰って部屋の掃除しなきゃなんないし、今日は帰りまーす。じゃあな、凛ちゃん」 「なんなんだ、あいつは…。相変わらず騒がしい奴め…」 「まあまあ、今、最高に幸せな時なんだよ」 「部屋の掃除の意味がわからん」 「今度の休みに、彼女が家に来るんだって。清、浮かれてるよねぇ」 「清忠のくせに。なんか腹だたしいな」 「もう、銀ちゃん、清の幸せを喜んであげなよ。それに、これからは清がデートで忙しくなるから、俺、暇になっちゃうんだよね…。銀ちゃん、もっと構ってくれる?」 「なんだ?清忠に彼女が出来て寂しいとか言うなよ?おまえには俺がいるのだからな。他の奴の事など微塵も考えられない程、満たしてやる。ほら、おいで」 「うん、銀ちゃん、大好き」 「知ってる。凛、愛してるぞ」 この後、メチャクチャ抱き潰されました。

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