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第269話 番外編 浅葱の願い
◇浅葱のある一日◇
朝晩が過ごしやすくなってきた10月のある日曜日、銀様と凛に会いに行った。今日は休みの日だから、2人とも家にいる筈だ。
2人が住む家に着いてインターフォンを鳴らして待つ。しばらく待っても出て来る気配がなく、『もしかしてデートに行ってる?』と不安になったその時、玄関扉の向こうから足音が聞こえて、ガラリと扉が開いた。
「はい…、あれ?浅葱、どうしたの?」
出て来た凛の頰が、心なしか赤く染まってる気がする。俺は凛の横をすり抜けて中へ入り、にこりと笑った。
「ずいぶんと会ってなかったから、遊びに来たんだ。何か予定があった?」
「え?ううん、大丈夫だよ。俺も会いたかったから嬉しい」
少し挙動不審な凛に首を傾げていると、奥から氷のような冷たい眼差しを俺に向けて、銀様が出て来た。
俺はピンときて、凛に謝る。
「あ〜…、凛、ごめんね?銀様とイチャイチャしてたんだろ?邪魔しちゃったね。俺、出直すよ…」
「えっ、あっ、い、いや…っ、だ、大丈夫だからっ。せっかく来たんだから上がって…っ」
「いいの?続きはやんなくて」
「な、何言っ…てっ。いいから、ほらっ」
凛に腕を引かれて玄関を上がる。居間の入り口で銀様に会釈をすると、「ちっ、間の悪い…」と、俺に悪態を吐く声が聞こえた。
本当に銀様は、凛の事になると喜怒哀楽がはっきりしている。普段は何事にも動じず、常に冷静沈着を保っている高貴な天狗の銀様が、凛が関係してくると、驚くほど取り乱すのだ。
そして、凛には甘く優しい銀様は、凛以外には恐ろしく容赦のない仕打ちをする。
たぶん今は、凛とイチャイチャしていたところを邪魔されて、かなりご立腹だと見た。とりあえず俺は、銀様の逆鱗に触れないように、そっと凛の傍に張り付いた。
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