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第270話 番外編 浅葱の願い

凛が、冷蔵庫から冷たいほうじ茶をグラスに入れて、お盆に乗せる。お盆を持って俺を見ると小首を傾げ、くすりと笑った。 「浅葱、どうしたの?座って待っててくれていいのに。ほら、そこ、座って」 「うん、ありがと」 凛に示された、座卓を挟んだ銀様の向かい側に座る。凛がグラスを並べたところで、手土産を渡した。 凛がお礼を言って受け取り、座卓に置いて風呂敷を広げる。重箱の蓋を開けて、歓喜の声を上げた。 「うわぁ…、すっごく美味しそう!ありがと、浅葱」 「どういたしまして。って言っても、それ、紫様の手作り。凛、和菓子が好きだろ?凛ちゃんの為にっ、って張り切ってらしたよ」 「紫さんが?そっか…。銀ちゃん、俺、またお礼を言いに行きたい」 凛が隣に座る銀様を見上げると、銀様は蕩けるような甘い目をして、凛の頰を撫でた。 「母さんが勝手にやったことだから、別にいいのに…。と言ったところで、おまえは律儀だから聞かないだろ?いいよ、今度、郷に連れて行ってやる」 「うん」 可愛い笑顔を見せる凛を見て、幸せそうで何より…と、俺まで嬉しくなった。 凛が皿に、重箱の中のおはぎを乗せて、俺の前に置く。自分の前にも置いて、両手を合わせて食べ始めた。 「いただきまーすっ。…ん、んぐっ、美味しい…っ」 「よかったな」 「銀ちゃんも、いる?」 「いや、甘そうだから要らん。後で凛を食べるし…」 「そう?甘さ控えめで美味しいのに。ね?浅葱」 「えっ?あ、う、うんっ」 俺に同意を求める凛に、慌てておはぎを口に入れて頷く。 ーーてか、今さらりと銀様が凛を食べる、と言ったよね?え?そこはスルーなの? 凛の恥ずかしがる基準がよくわからない、と眉を寄せていると、凛がにやにやしながら俺を見ていた。 「なに?」 「んふふ。ねぇ浅葱、最近清に会った?」 「え?会ってないけど」 凛の不気味な笑い方が、怖い。 「そっか。清ねぇ、なんと!彼女が出来たんだよっ!」 「え?ええっ‼︎清忠にっ⁉︎」 「そうなの。とっても可愛いんだよ?今、清は、幸せの真っ只中なんだ」 「嘘だ…。清忠に?俺でさえ彼女がいないのに?ヘタレの清忠に?」 「そう思うだろ?浅葱。でも事実だ。清忠を選ぶなど、ずいぶんと変わり者の彼女だ」 「そうですね。目が悪いのでしょうか?」 「ち、ちょっとっ、二人ともっ」 清忠よりも俺の方がモテるだろう、と納得しかねていたら、凛が、今度は頰を膨らませて、俺と銀様を睨んでいた。

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