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第275話 番外編 神使の愛し子
倉橋神社は、長年、陰陽師を輩出してきた神社だ。蒼の祖父などは、かなり力の強い陰陽師だった。蒼の父は、全くその力を受け継がなかったが、蒼は祖父の力を受け継いでいたらしく、祖父から目をかけられて直々に鍛えられていた。
私の姿が見えるが故に、蒼は周りから、独り言の多い変な子に思われていたようだ。その上、陰陽師の修行を受けていた為に、ますます近寄り難い存在として、あまり友達も出来なかった。
蒼は、「白がいるからええねん」と笑っていたが、私には蒼が寂しそうに見えた。
私は蒼がいるおかげで、楽しく毎日を過ごせている。
私も蒼の為に何か出来ないだろうかと思い悩むうちに、時が過ぎて、蒼は高校生になった。
高校生になった蒼は、今までと違って毎日が楽しそうだった。なんでも、「クラスに友達になりたい子らがいるねん。その子らを見てると楽しいねん」だそうだ。
「そうか。仲良くなれるといいな」
私がそう言うと、弾けるような笑顔で頷いた。
秋の遠足の後から、やっと仲良くなれたらしく喜んでいた。
正月には、蒼が友達になりたいと言っていた者達が、この神社に来た。
私は本殿の上から見ていたのだが、なんと一人は狐の妖ではないか。妖狐と友達になりたいなどと、やはり蒼は変わっていると、呆れて溜め息を吐いた。
もう一人は、人の子だった。だが、その人の子も普通ではない。かなり距離があるここにいても、人の子からは、天狗の匂いが強く香って来る。しかもあれは…、天狗に精を注がれている?
なぜに?人の、しかも男が?天狗の精を?私はどういう事なのかを知りたくて、その人の子にひどく興味を持った。
そして、すぐに謎は解決した。
一人で神社に来た人の子に声をかけ、事情を聞いたのだ。
人の子は、天狗と愛し合っていた。しかも、花嫁の契約を交わすほどの深い愛だ。
人間と天狗…。長年生きていると、そんな話も聞いた事がある。だがそれは、男と女の話だ。
人間と妖で、男と男で。それも有りなのかと、なぜか納得し、感心し、感動した。
そうか…。ならば、神使と人間でも、よい…のだろうか。
ふと過った考えに、慌てて頭を振る。
今、何を考えた?私は神の使いだ。しっかりせねばならぬ。
深く息を吐いて、境内に目を向ける。
そこに、境内をホウキで掃く蒼がいた。スラリと背筋の伸びた、気高い蒼。
私の、大事な愛し子だ。
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