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第276話 番外編 神使の愛し子

季節が巡り、一つ学年が上がった蒼のところへ、椹木と清忠が泊まりに来た。 椹木が龍に連れ去られる騒ぎで、3人の信頼関係がずいぶんと深まったようだ。 泊まりに来た椹木にくっついて、銀色の天狗も来た。心配で片時も離れていたくないのだろう。 天狗と酒を飲みながら、ばーべきゅうというものをする蒼を見た。椹木に何やら教えながら、楽しそうに笑っている。誰かといてあんなに笑う蒼は初めてだ。蒼に、友達が出来てよかった…と嬉しく思うのに、なぜかもやもやとする。 あまりにも長く、私は蒼を見つめていたのだろう。天狗が意地の悪い笑みを浮かべて私を見た。 「…なんだ」 「ふんっ、ずいぶんと人間らしい心を持ってるのじゃないか?神使だ人間だと線を引く必要はない。素直にならないと、大事なものを失うぞ?」 「おまえ…、私を侮辱してるのか?蒼の友の大事な天狗といえど、許さんぞ」 「侮辱などするものか。俺は、助言してやってるんだよ。まあ、あんた達のことなど、俺には関係ないけどな。俺は凛が傍にいれば、それでいい」 愛しげに椹木に目をやる天狗に苛立ちを覚える。が、反面、少し羨ましいとも思う。 この天狗のように、私も惜しげも無く愛情を注げばよいのだろうか。私なりに注いできたつもりだが、よくわからぬ…。 また季節が巡り、境内の紅葉が色づき始めた頃、天狗の部下が騒がしくやって来た。 蒼に半泣きで訴えている話によると、清忠に彼女が出来て悔しい、ということだった。 ひと通り騒いで帰った後に、ふと不安がよぎって蒼に尋ねる。 「蒼、おまえは彼女とやらはいらないのか?」 蒼は目を見開いて私を見ると、思わず見惚れてしまう綺麗な笑顔で言った。 「俺には白がいるからええねん」 その言葉に、今度は私が目を見開く。 そうか。なら、真剣に考えようと思う。神の使いの役目から外してもらい、蒼と同じ時間を生きる事をーー。 …end.

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