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第280話 番外編 かすみ草

清忠と倉橋には先に行ってもらい、俺は銀ちゃんと一緒に行く事になっていた。ていうか、俺が銀ちゃんに「家で待ってて」と頼んだんだ。 気持ちが急いて、早歩きから小走りになって家へと急ぐ。家が見えると走って玄関に駆け込んだ。 「はあっ、はあっ、…銀ちゃん!ただいまぁっ」 「おかえり。どうしたんだ?そんなに慌てて」 居間から銀ちゃんが出て来て、俺の前に来ると身体を屈めて俺の頰を撫でる。俺は、頰に触れる温かい手に擦り寄ると、靴を脱いで玄関を上がり、荷物を床に置いた。 そして、制服の胸に付けられていた、一本の赤い薔薇とかすみ草のコサージュを取って、銀ちゃんに差し出した。 「銀ちゃん…はい、これあげる」 「可愛らしい花だな。ありがとう。でも、なんで俺にくれるんだ?」 「これ…、クラスの子に聞いたんだけど、赤い薔薇は『愛してる』って意味で、かすみ草には『感謝』や『幸福』って意味があるんだって。なんか、俺の気持ちにぴったりだなぁ…と思って。いつか、もっとちゃんとした花束をあげるね?」 「そうか…ふっ、ははっ。おまえは本当に最高だな。凛、愛してるぞ」 じっとコサージュを見ていた銀ちゃんが、俺の話を聞いて、いきなり笑い出した。 喜んでくれてるのだろうけど、なんだか小バカにされたような気がして、俺は口を尖らせた。 「…なんで笑ってんの?俺のこと、バカにしてるだろ…」 「違う。ふっ、おまえがあんまり可愛い事を言うからだろ?」 「なにが?」 「こんなおっさんに花束なんて、おかしくないか?綺麗な花束は、おまえの方こそよく似合う。俺も、いつかおまえに渡そう」 「銀ちゃんはかっこいいし綺麗だから、花束をあげたいと思ったんだよ…っ。それにおっさんじゃないし…。もういい…、銀ちゃんのバカっ…」 ずずっと鼻をすすりあげてそっぽを向く。途端にふわりと抱きしめられて、顔中にキスの雨が降ってきた。 「…んぅ…や、もぅ…くすぐったい…」 「笑って悪かった。おまえは、俺の事をそんな風に思ってくれてるんだな。嬉しいよ。凛、必ず花束をくれよ?待ってるぞ?」 「ふ…んっ、ん…、すっごく綺麗で大っきいの…、ふ…、あげる…ね」 「ん…凛…」 「あ…、んっ、ふぅ…ん」 俺の唇を啄ばみながら、銀ちゃんが甘く囁く。俺の返事を聞くと、より深く唇を合わせてぬるりと舌を挿し入れた。数分間、舌を絡め合わせて、ようやく顔が離れる。 俺は、しばらく銀ちゃんの胸にもたれて息を整えると、蕩けて力の入らない身体をのそのそ動かして、着替える為に2階へと上がって行った。

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