284 / 287

第284話 番外編 紅に染まる

◇凛、高二の秋◇ 天狗の郷の領域内に、周りを紅葉の木に囲まれた広場がある。俺が銀ちゃんと出会った日に、連れて来てもらった場所だ。 真っ赤に染まる紅葉が敷きつめられた景色に、小さな俺は、飛び跳ねて喜んだ。時間を忘れて、目一杯遊んだ。 帰りにまた会いたいとねだると、銀ちゃんは快く承諾してくれたんだ。 ーー懐かしいなぁ…。 あの頃の事を思い出して、俺は顔を綻ばせる。銀ちゃんが微笑みながら、俺の顔を覗き込んだ。 「凛、機嫌がいいな。可愛い顔をしてどうしたんだ?」 「………うん、銀ちゃんと初めて会った日の事を思い出してたんだ」 「そうか。ふっ、あの時のおまえは、とても愛らしかったな。俺は一目で虜になった」 「そうなの?ふふ、ありがと。俺も、銀ちゃんのこと、すごく綺麗だなぁって、見惚れてたんだよ?懐かしいよね」 「ああ、共通の思い出があるのは、いいものだな。欲を言えば、おまえの少年時代も共に過ごしたかった」 「俺も、制服姿の銀ちゃんを見たかったなぁ。でも銀ちゃんがモテるところを見るのは嫌だ…」 「ああ…それは嫌だな。おまえに近寄って来る奴らを、片っ端から殴ってしまいそうだ。凛、可愛いおまえが、よく今まで無事でいたな」 ほうっと息を吐いて、銀ちゃんが俺の頰を撫でる。俺は心配し過ぎな銀ちゃんの勘違い発言に、苦笑いを浮かべた。 「…だから、俺のことそんな風に思うのって、銀ちゃんだけだからっ。それに、小さな子供の時に契約したんだから、俺はずっと銀ちゃんのモノだろ?」 「おまえは自分の魅力をもっと自覚しろ。でもまあ…そうだな。大人になるのを待たずに、あの時に契約をしておいて良かった」 「してなくても、きっと俺は銀ちゃんを選ぶよ」 「俺もだ」 お互い顔を見合わせて、ふふっ、と笑い合った。 銀ちゃんと手を繋いで、まるで赤い絨緞のような、紅葉が散りばめられた上を歩く。 黒いズボンにグレーのジャケットを羽織った銀ちゃんが、この神秘的な景色の中で、神々しいくらいに美しい。 俺は景色ではなく、ぼんやりと銀ちゃんを見つめていたらしい。気がつくと、銀ちゃんの顔が間近にあって、しっとりと唇が押し当てられた。 「…んぅ…」 「ふっ、可愛い」 ゆっくりと離れていく端正な顔を、蕩けてしまった目に映す。俺の頰を撫でていた銀ちゃんが、ぎゅっと強く抱きしめてきた。 「はあっ、凛…可愛すぎ。その白いセーターが赤の景色に映えて、とても綺麗だ」 「綺麗なのは、銀ちゃんだよ?ふふ、でもありがと。いつも俺を褒めてくれて」 「褒めていない。事実を言ってるだけだ」 「うん、でもいつも嬉しい言葉をくれるから。ありがと」 「…おまえは本当に可愛いな」 「うわぁ…、最近めっきり冷えるようになったと思ってたのに、ここだけ暑いっすね〜」 突然声が聞こえて、銀ちゃんと同時に振り向くと、苦笑しながら浅葱が舞い降りて来た。

ともだちにシェアしよう!