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第285話 番外編 紅に染まる

俺の頭上から、「チッ…」と小さく舌打ちが聞こえた。見上げると、銀ちゃんが忌々しげに浅葱を見ている。 浅葱は、俺達の前に降り立って、抱えていた大きな荷物を置いた。 「…よっこいしょ。はぁ〜、荷物を持って飛ぶのは肩が凝るよ…。あれ?銀様、その顔、おかしくないですか?俺に、これを持ってくるように言ったのは、銀様でしょ?まあ、タイミング悪いところに来ちゃったなぁ…とは思いましたけど、どのタイミングで来ても、結局はいつもイチャイチャしてるじゃないですか?なのに、その態度はいただけないっす」 「…ふぅ、口やかましい奴め…。浅葱、ご苦労だった。もう帰っていいぞ」 「えっ?それだけ?ちょっとくらい凛と話させて下さいよ〜。ね、凛」 「うん、いいよ。浅葱、この前、清に会いに行ったんだって?なんか様子がおかしかった、って清が心配してたよ?大丈夫?」 「…お、う、うん…。だ、大丈夫だよ?別に…清忠にか、彼女が出来たって…っ」 浅葱が、手を忙しなく動かして、目を泳がせながら言う。その様子に、何となく浅葱の心情がわかった気がした。 「浅葱…、浅葱もすぐに彼女が出来るよ。だって、最近はモテるんだろ?大丈夫だよ。元気出して?」 「え?いやまあ…そう言うんじゃないんだけど…。なんか、上から諭された感がすごい…」 「何をブツブツ言ってる。優しい凛が、おまえに心を砕いてやってるんだぞ。感謝しろ」 「もぉっ、銀ちゃん!そんな上からじゃなくて、友達として心配してんのっ。…ところで浅葱、その荷物なに?」 浅葱が嬉しそうに「凛は優しいねぇ」と頷いて、しゃがんで大きな袋から、中身を取り出した。 大きなシートに三段御重、お酒とジュースとお茶に、和菓子に洋菓子。 この場所に来てから、お弁当を持って来ればよかった…と思っていた俺は、声を上げて喜んだ。 「わあっ!すごいっ!ありがとう、浅葱。どうしたの、これ?」 「昨夜、銀様から連絡があったんだよ。明日、凛とここに来るから、凛の好きな食べ物を用意して持って来い、って」 浅葱が広げた荷物の傍でしゃがみ込んでいた俺は、立ち上がると銀ちゃんに抱きついて頰を擦り寄せた。 「銀ちゃんっ。ありがとっ!俺、お弁当を作って来ればよかったなぁ、って、ここに来てから残念に思ってたんだ。ね、今日は一日、ここでゆっくりしていい?」 「ああ、おまえのその顔を見たかったんだ。一日、二人きりでゆっくり過ごそう」 「うんっ、えへへ…嬉しい。…え?二人?浅葱は?」 首を傾げて銀ちゃんを見上げ、浅葱を振り返る。 浅葱は、やれやれと言う風に肩をすくめて立ち上がった。 「わかってますわかってます。俺は早々に退散しますよ。ゆっくり思う存分、イチャイチャして下さい」 「え…でも浅葱、せっかく持って来てくれたのに…」 俺は、眉尻を下げて浅葱を見つめる。 浅葱は、にっこりと笑って、俺の肩をポンと軽く叩いた。 「凛は気にしなくていいの。俺も、凛の喜ぶ顔が見たかったしね。それに、俺はこれからもう一つ仕事があるんだよ」 「そうなの?何するの?」 「それは…。もう来られると思うんだけど」 空を仰ぐ浅葱につられて、俺も顔を上げた。 すると、小さな二つの影が近づいて来るのが見えた。

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