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第286話 番外編 紅に染まる

二つの影が、この広場に舞い降りて来て、俺は大きな声を出した。 「鉄さんっ。久しぶりだね。元気だった?」 「やぁ、凛。凛はいつも、元気だな」 赤い葉っぱを舞い上げながら、この地に足を着いたのは、鉄さんと、鉄さんに手を引かれた杏さんだった。 俺は二人に駆け寄って、にこりと笑顔を見せる。 「あ、えと、こんにちは…。あの、俺…結婚式の時には、勝手な事をしてしまって…っ」 「ふふっ、こんにちは。いいえ、とても素敵な事をしてもらって嬉しかったわ。あの時は、ありがとう」 「そう…ですか?なら、よかったっ。あっ、二人も紅葉を見に来たの?」 いつの間にか傍に来た銀ちゃんが、俺の肩を抱き寄せる。俺は、素直に銀ちゃんの胸に頭を擦り寄せて、二人に尋ねた。 「いや…ここに、しろと凛がいると聞いて、少し顔を見に寄っただけだ。僕達は、今から買い物に出かけるんだ」 「そっか。もっと、ゆっくり話せるのかと思った。残念だね…。ん?浅葱がまだ仕事がある、って言ってたけど、一緒に行くの?」 鉄さんも杏さんの肩を優しく抱き寄せ、俺と銀ちゃんを見て微笑んだ。 「浅葱は荷物持ちに連れて行く。杏にね、子供が出来たんだ。僕達の子供。来年の春に生まれてくる。とても嬉しくてね。杏にあまり悪阻がないし、早速子供の物を買いに行くんだ」 俺は、身体の奥から嬉しさが湧き上がってきて、自分の事のように喜んだ。 「ええっ!すごいっ。おめでとうっ!わあっ、絶対に可愛い赤ちゃんだよっ。すごいねぇ」 「…凛」 感動で身体が震える。銀ちゃんが、俺を強く抱きしめて、頰に唇を寄せた。 「凛…興奮し過ぎだ。おまえ、自分が泣いてる事に気づいてないだろう?」 「え?あ…。ご、ごめん…。なんか、感動しちゃって…」 「だろうな。おまえの泣き顔は誰にも見せたくないから、しばらくこうしておけ」 銀ちゃんが、俺の頭を押さえつけて、息が苦しいくらいに抱きしめる。 銀ちゃんのジャケットの下のTシャツで顔を拭うと、俺は銀ちゃんの胸を押して離れた。 「…んぅ、もぉ、苦しいから…っ。もう大丈夫だよ。えへ、鉄さんと杏さん、なんか恥ずかしいとこ見せちゃってごめんね?」 二人を振り返り、ぽりぽりと頰をかいて照れ笑いをする。 そんな俺に、杏さんが優しく笑ってくれた。 「いいえ、そんなに喜んでもらえてすごく嬉しい。なんだか元気をもらったわ。ねぇ、凛さん、生まれたら会いに来てくれる?」 「もちろんです!うわぁ…今からすごく楽しみっ。身体、大事にして元気な赤ちゃん、産んで下さいね。あっ、今から出かけるのも気をつけて。浅葱をこき使って下さいっ」 「ふふっ、ありがとう。浅葱は、こちらから言わなくてもよく気がつくから、助かってるのよ」 「まあ、俺って出来る男だから」 今まで黙って控えていた浅葱が、俺の横に来て、胸を張って言った。

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