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*** *・。*・。*・。*・。* ヒコリ・ディコリ・ドック わたしが知っているのは、風の音、鳥の歌 あなたがくれる確かな熱 ヒコリ・ディコリ・ドック *・。*・。*・。*・。*  冷たい石のブロックに囲まれた小さな部屋。高い高い塔の天辺に位置するそこで、少年は暮らしていた。そこには何もない。金縁の鏡も無ければ花の香りの紅茶も無く、温かいベッドも無ければ扉もない。ひとつの小さな小窓だけが壁についていて、それだけが少年を外界と繋いでいた。 *・。*・。*・。*・。* ヒコリ・ディコリ・ドック わたしの歌をきいているのは誰 その薔薇の蔓でわたしのもとへやってくるのは誰 ヒコリ・ディコリ・ドック *・。*・。*・。*・。*  華美なドレス。およそ「少年」と呼ばれる性をもつ人間には似つかわないだろう、白いレースとたくさんの薔薇をあしらったドレスを少年は身に纏っていた。しかし、不思議な事に少年にはそのドレスがひどく似合っている。白く華奢な身体、さらさらとした黒髪。華やかなドレスの装飾は、少年を美しく飾っている。  少年がそっと窓から手をのばすと、ふわりとレースが揺れた。唇から紡がれる唄にあわせて風が吹いて、レースが踊っている。鈴の鳴るような透明な歌声が、風にのって消えてゆく。 「ラプンツェルや! ラプンツェルや! おまえの薔薇を下げておくれ!」  ふと唄を遮ったのは、塔の下から響いた男の声。少年はその声を聞くと、静かに笑って新たな唄を歌う。 *・。*・。*・。*・。* 薔薇の香りのなかであなたに抱かれるわ 暗い塔のなかでわたしはただ あなたのキスを待っているの *・。*・。*・。*・。*  するとどうだろう。塔に絡みついていた薔薇の蔓がするすると生き物のように動き出して、太い一本の縄のように絡み合う。薔薇を守るように付いていたはずの刺は柔らかくなって、蔓を掴んだ男の手を傷つけることはなかった。少年を呼んだ男は慣れたように蔓をつかって塔の壁を登ってくる。そしてあっという間に少年の部屋の小窓に到達すると、そこから中へ入ってきた。 「おはよう、ラプンツェル。いい子にしていた?」 「アウリール様……お待ちしておりました……」 「ふふ、可愛いね……ラプンツェル」  現れたのは黒いローブを纏った長髪の男。少年は彼の姿を見るなり頬を紅潮させて抱きついた。男が髪を撫でてやると、少年は鼻から抜けるような甘い声をだして男に頬をすりつける。 「あ……アウリール様……」  男は少年の首筋に唇を這わせる。白い首に薔薇の花弁のような鬱血痕が散ってゆく様は、なんとも淫靡で耽美的であった。少年は仰け反って、溜息のような高く甘やかな艶声をあげ、身体を小さく震わせている。 「あぁ……ん、ぁ」

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