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***  悠久の幸福だと思っていました。時の奴隷と成り果てようとも、僕は確かに熱い血脈を抱きながら薔薇の匂いを感じていたのです。  少年の(まなこ)はガラス窓。そこに映る景色は滞留することなく流れ行く。少年は何かを感じて生きているのか、ただの繋がれた人形同然か。毎日のように狂った交尾をして、身体を求められることのみに幸福を覚え、それになんの疑問も抱かない。  ひらりと風にのって舞い込んできた鳥の羽根と共に訪れた、少年が新しい幸福を知る鍵。 「ラプンツェルや! ラプンツェルや! おまえの薔薇を下げておくれ!」  する、と耳の中に入ってきた男の声。少年は条件反射のように唄を歌う。 *・。*・。*・。*・。* 薔薇の香りのなかであなたに抱かれるわ 暗い塔のなかでわたしはただ あなたのキスを待っているの *・。*・。*・。*・。*  歌いながら、少年はふと思った。おかしな唄だ。キスなんてものをどうして待たなくてはいけない。それよりももっと幸せな行為をしているだろう。  風に黒髪を撫ぜられながら、少年は男がやってくるのを待っていた。 「あ、ほんとに人がいた……!」 「え」  アウリールの声じゃない。小窓から顔を出した男の姿に、少年は目を見開いた。アウリールよりもずっと若く、太陽に照らされた笑顔がやたらと眩しい彼。誰。いったいこの人は誰。 「男……だよな? なんでそんな格好してるの? いや、綺麗だけど」 「だ、誰ですか……! なんでここに!」 「えー? なんでって……よくアウリールがこの塔の前でさっきみたいに呼びかけててさ、そうすると薔薇が一気に咲いてそれをアウリールが登ってて? いやー、なんなんだろうって思ってアレの真似してみたんだよ」 「……っ」  さっきの呼びかけは、男がアウリールの真似をしたものだったということだ。少年はいつものアウリールの呼びかけだと勘違いして、自ら男の侵入を許したのだ。  男が軽快に部屋に入り込んでくる。思わず少年が身を引くと、少年を繋ぐ鎖が、ジャラ、と耳障りに鳴る。男はその音を聞いた瞬間、顔をしかめてグッと少年に詰め寄った。

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